【要約と感想】代田昭久『校長という仕事』

【要約】民間企業で社長を務めた後に公立高校の校長になりました。一日やることだらけでけっこう忙しく、一年の仕事は変化に富んでいます。教育委員会からは時々変な問い合わせがあるし、教員や保護者との関係には気を遣います。様々な問題に対応するために、民間企業で培った経験を生かしてマネジメントに取り組み、成果を挙げました。

【感想】杉並区立和田中学校の校長ということで、もちろん藤原和博元校長については様々なメディア報道を通じて「よのなか科」や「夜スペ」などについての話を耳にしていたわけだが、その後任の校長先生(やはり民間出身)が書いた本だ。現場にいた人にしか書けない話(たとえば教育委員会とのやり取り)にはナルホドと思ったし、教育課程論の観点からもマネジメントの話はなかなか勉強になった。現在のホームページを見ても、和田中学校の独創的な取り組みは健在のようだ。著者はその後教育監や教育長を歴任して、教育改革に取り組んだ。
 10年以上前の本ということで、教育委員会の構造や学習指導要領の内容、GIGAスクール構想、部活動の地域移行など現在の制度や文科省の方針と異なっているところはもちろん多々ある。そういう意味で、現在進行形の教育について知ろうと思っている向きには、あまり参考にならないだろう。しかし逆に現在の教育制度や方針をよく知っていると、本書に描かれていることの多くが実は文科省が現在推奨している試みの先行事例であることに気づく。iPADの活用や、コミュニティスクールや、部活動の地域移行や、民間教育産業へのアウトソーシングなど、大枠ではその後に文科省が制度化する方針の先触れとなっている。そういう意味で、単に校長の仕事の内容(あるいは民間校長の有り様)を理解したい向きだけでなく、新しい制度や方針にどう対応すべきか迷っている管理職および教育委員会の中の人には考え方の指針を示してくれる有用な本かもしれない。そしていくつかの方針の先触れになっているという観点からすると、「校内研修の廃止」や「45分授業」や「民間教育産業との協力」について、今後文科省がどういう方針を示してくるか注目だ。
 個人的な印象では、もちろん私の教育観とは様々なところで違っているわけだが、確かな理念を土台にして明確な方針を打ち出しながら丁寧なコミュニケーションを心がけつつ多方面のステイクホルダーに対する配慮を欠かさない熱心で誠実で精力的な仕事ぶりに素直に感心せざるを得ない。文面からは、民間校長の理想的な姿が浮かび上がってくる。こういう人材を採用できるのであれば、民間校長も悪くないのだろう。とはいえ、本書にもちょっとした仄めかしがある通り、問題は起こしている。著者に限らず、民間校長は様々な問題を起こしている。しかし考えてみれば、叩き上げの校長だって様々な問題を起こしている。茨城県や堺市など積極的に民間校長を採用している自治体もあって、今後どういう成果を挙げるか(あるいは問題を起こすか)注目したい。

代田昭久『校長という仕事』講談社現代新書、2014年