【要約と感想】佐藤賢一『カペー朝―フランス王朝史1』

【要約】歴代フランス王朝のうち、西フランク王国をのっとる形で成立したカペー朝14代(西暦987年~1328年)の王の事跡と人となりを、おもしろおかしく説明しています。987年の王朝成立時には王とは名ばかりで、ほぼ一地方領主としてスタートしたカペー朝は、着実な男子相続を柱に、慌てず急がず硬軟織り交ぜながら地道に勢力拡大を続け、1328年には現在フランス領とされる地域の大半を勢力圏として押さえましたが、内政制度の未熟や有力領邦貴族の存在を考えると、未だ「国家」と呼ぶには至っていません。この課題には次のヴァロワ朝が応えることになります。

【感想】さくっとフランス史を押さえたい向きには良い本だろう。特に推測も交えた男女関係の下世話な話が楽しく、飽きずにおもしろく読める。
 個人的にはトマス・アクィナスが活躍した時代の背景を押さえておこうという関心もあったわけだが、トマスの生涯(1225-1274)が聖王ルイ9世の治世(1226-1270)とほぼ重なっていることを把握した。
 まあ、王たちの細かい事跡や紛らわしい固有名詞(ルイとかシャルルとか多すぎ)の数々は忘れてしまっても、歴史理論的には大きな問題ではない。カペー朝の段階ではまだ群雄割拠が続いていて、国家と呼べるような体をなしていなかったことを押さえておくのが重要だ。フランスの「王位」はあっても、まだフランスという「国家」は形になっていない。そういう意味で、確かに副題にあるように「王朝史」ではあっても、「フランス史」ではないわけだ。そしてそれは日本にも当てはまるのであった。

佐藤賢一『カペー朝―フランス王朝史1』講談社現代新書、2009年