【要約と感想】岡野守也『ストイックという思想 マルクス・アウレーリウス『自省録』を読む』

【要約】ストイックとは、世間一般でしばしば言われるような「禁欲主義」という意味ではありません。実際には、社会が必要とする公務=ミッションを透徹した理性と強靱な意志でやり抜く姿勢を示す言葉です。この姿勢の背景には、宇宙全体を「一」として理解するコスモロジーがあります。我々はみんな宇宙の一部であり、あらゆる出来事が自然の理法のうちにあることを理解すれば、自らの不運を嘆いたり、快楽に走ったり、辛い仕事を避けたりするようなことは、すべて無意味だということが分かります。起こる出来事はすべて受け容れて、自分がやるべき仕事=人間にしかできないミッションを粛々とやり抜きましょう。それが人間固有の幸福というものです。

【感想】ストア派の思想が今こそまさに必要になっているという時代認識の下で書かれた本だ。具体的には2011年の東日本大震災を受けて行われた講義が元になっているが、もっと長い目で見ても、まさに今こそストア派の思想が必要だという時代認識が各所で示されている。実際、本書以外でも、ストア派の考え方を扱う本が増えているような印象がある。
 その中でも本書の大きな特色と言えるのは、ストア派のコスモロジーを前面に打ち出しているところだ。他の本は、ややもすると「辛い現代を生きる賢人の知恵」という特徴を前面に打ち出しがちのように思うし、実際そういうところに世間の需要があるのだろうとも思う。しかし本書は、現代を生きる知恵も扱いつつ、その物理的・論理的・神学的背景となっている体系的なコスモロジー(宇宙論)を随所で強調しているところが大きな特徴だ。宇宙は一つであり、我々はその一部であり、あらゆるものが宇宙の一部であり、だとすれば我々はあらゆるものと親和的に結びついている、というコスモロジー。この原理原則から、マルクス・アウレーリウスの言葉を読み解いていく。あるいはマルクス・アウレーリウスの言葉を味わいながら、ストア派コスモロジーの原理原則を確認していく。個人的には、単に「辛い現代を生きる賢人の知恵」としてストア派の考え方を利用するのもいいのだが、本書が示しているように、ストア派コスモロジーそのものに共振できるかどうかが本質的な意味を持つように思う。
 分かりやすく平易な文章だけど、深掘りするといろいろ出てくる、味わい深い本だったように思った。

岡野守也『ストイックという思想 マルクス・アウレーリウス『自省録』を読む』青土社、2013年