【要約と感想】藤田大雪『ソクラテスに聞いてみた―人生を自分のものにするための5つの対話』

【要約】ソクラテスが現代日本にやってきて、迷える若者と対話し、魂の世話をすることの大切さを思い起こさせます。友達、恋愛、仕事、お金、結婚の5つが主なテーマになっています。

【感想】現代日本に生きる迷える若者に対する指針としては、とてもいい本だと思った。生きる上で何が大切なのかが、簡潔に、ストンと胸に落ちてくるような、分かりやすい記述になっている。生きるのが辛い若者には、本書を読ませてみるといいのかもしれない。

ただし、ソクラテスの描写に関しては、まったく感心しなかった。本書に登場する人物は、ソクラテスではない。たとえば冒頭の「友達」に関する議論は、完全にアリストテレスだ。ソクラテスだったら逆立ちしても絶対に言わなさそうなことを平気で言っている。百歩譲ったとしても、そこにいるのは中期プラトン以降のソクラテスだ。私の好きな前期のソクラテスの姿は、本書には描かれていない。まあ著者と私のソクラテス観の違いに過ぎないところではあるのだろうが、主観的にガッカリするのは仕方がないと思う。
また、アリストテレスが現代日本に転生する本(高橋健太郎『振り向けばアリストテレス』)が良くデキすぎていたせいもあるのだろうが、それと比較してしまうと、SFとしての完成度の違いがありすぎる。まあ、SFとして読むもんじゃないと言われればそうなんですけれども、あのソクラテスがわざわざ現代日本に転生してくるからには、それなりの理由が当然あるものだと思うし、ソクラテスの本質に根ざした謎解きがあるだろうと期待してしまうものだ。
ま、ソクラテスに対して思い入れがない人にとってはどうでもいいことではある。

【個人的な研究のための備忘録】
「恋」と「愛」の違いについては、いろいろな人がいろいろなことを言っているし、個人的にも関心がある。本書はこのテーマに真正面から取り組んでいる。

「恋と愛のちがいは、キミも認めてくれたように、『恋は状態であり、愛は行為である』という点にあると、ぼくは考える。だからこそ、きっと世の人びとは、恋する人をうらやみこそすれ決して賞讃することはないが、一方で慈愛に満ちた人に対しては、賞讃と尊敬を惜しみなく捧げるものなのだろう。」212頁

なるほど、一つの知見ではある。が、もっと掘り下げてもいいような気もする。
私の考えでは、恋は自分自身の感情に関わる言葉だが、愛は他者の存在(存在という言葉の最も純粋な意味における存在)に関わる言葉だ。「好きだけど愛していない」ということも可能だし、「好きじゃないけど愛している」ということも可能なのだ。

藤田大雪『ソクラテスに聞いてみた―人生を自分のものにするための5つの対話』日本実業出版社、2016年