【要約と感想】広田照幸『大学論を組み替える―新たな議論のために』

【要約】1990年代以降、大学改革が急速に進行しています。しかし、改革の論理は行き当たりばったりでデタラメなので、現場はむしろ疲弊しています。本質的で建設的な議論を進めていくためには、大学の存在意義に立ち帰る必要があります。

【感想】個人的な実感として、大学が何かおかしいことになっているなあと思ったのは、非常に優秀な先生が定年退職でもないのに東大を去ったときだ。寺崎弘昭先生と本書の著者である広田照幸先生が定年前に東大から去ったとき、何か変なことが起こっているんだろうなあと。そして特に軌を一にしたわけではないし、そんな偉そうな立場でもないわけだけれども、自分自身も大学から距離をとるような素振りをしてみたり。まあ、「沈みつつある泥船」に乗っているような感じがしていたのは、確かな気がする。
 が、なんの因果か現在は大学にポストを得ることができて、日々「校務分掌」の一環としてまさにNPMのPDCAサイクルに関わる業務に携わっていたりする。現場には教育の「質」を実質的に上げていこうと頑張っている教員もたくさんいるし、そういう教員が板挟みに遭って疲弊していく姿も目の当たりにしている。本書が言っていることは我が事として理解できるし、身にしみる。
 本書は、目の前の汚い現実に疲れたときに、顔を上げて遠くに霞む美しい風景を見て心を癒やされるような、そんな役割を果たすものかもしれない。目線を下げると、大変な現実が待っていることには変わりないのだが、もう一度がんばれる。

広田照幸『大学論を組み替える―新たな議論のために』名古屋大学出版会、2019年