【教師論の基礎】教員免許制度

はじめに

 学校の教員になるためには、通常は「教員免許状」の取得が必要となります(様々な抜け道が用意されていますが、ここではいったん脇に置きます)。近代国家の中で学校という組織が一定の役割を期待されている以上、教員の能力には一定程度の水準を確保する必要があるからです。
 (※この場合の教員とは、厳密には文部科学省が学校教育法第一条において管轄する幼稚園・小学校・中学校・義務教育学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校、および別の法律に根拠を持つ幼保連携型認定こども園に勤務する教諭等を指します。それ以外、たとえば大学や高等専門学校あるいは専修学校や各種学校の教員になるために教員免許は必要ありません。)

教育職員免許法

 教員免許状は、「教育職員免許法」という法律に則って発行されます。たとえば教職課程における必要な取得単位はこの法律で厳密に決められており、大学の裁量でどうにかなるものではありません。

教員免許は国家資格ではない

 医師や弁護士の資格は、国家資格です。「国家試験」があって、それにパスしないと取得できないものは、国家資格です。しかし教員には、「国家試験」がありません。つまり、国家資格ではありません。
 教員免許を発行しているのは、文科大臣ではなく、都道府県の教育委員会です。なぜ国家ではなく教育委員会が発行しているかというと、「教育行政は一般行政から独立しているべきだ」という理念が土台にあるからです。この理念については、「教育制度論」等で詳しく学んでください。
 近年は、教員資格を国家資格化するべきという主張を掲げて活動している人々もいます。

開放制

 教員免許は、教職課程を設置している大学で、法律(教育職員免許法)が定める既定の単位を取得すれば、獲得することができます。教職課程は、国公私立どの大学であっても、文科省の課程認定をパスすれば設置することができます。あらゆる大学に教職課程が設置できる現在の制度を「開放制」と呼んでいます。
 開放制の反対に、一部の限られた特殊な機関でしか教員資格を得られない制度のことを「閉鎖制」と呼んでいます。具体的にはたとえば、戦前の日本では、師範学校と名付けられた専門トレーニング機関でなければ、教員資格を得ることはできませんでした(いちおう他のルートもあります)。
 戦後の教育改革によって、師範学校は廃止され、教員養成は閉鎖制から開放制へと大きく変化しました。

相当主義

 免許は学校種(幼・小・中・高)や教科・分野ごとに区別されています。原則的には、中学校の免許を持っていても、小学校で教えることはできません。中学数学の免許を持っていても、中学理科を教えることはできません。ただし何事にも例外はあって、都道府県教育委員会からハンコをもらえれば、可能になる場合もあります。
 ちなみに大学や高等専門学校の教員には、教員免許が必要ありません。

種類

 普通免許状・特別免許状・臨時免許状の3種類があります。大学の教職課程を修了して獲得できるのは、普通免許状です。
 普通免許状には、二種免許(短大・専門学校)・一種免許(学士)・専修免許(修士)の3段階があります。給与や職能がそれぞれ違っています。

近年の変化

教員免許更新制度

 2009年から教員免許に有効期限(10年)が設けられました。更新するためには教員免許更新講習を受ける必要があります。
 が、2021年8月、この教員免許更新制度がなくなる見通しが、文部科学省より公表されました。2023年度になくなる見通しのようです。理由の一つは、現場の先生方にたいへん不評であったことです。自前で参加させられる割に、まったく役に立たない、との声が大きかったようでした。であれば、個人的には、どうしてこんな誰も得をしない制度が導入されたのか、経緯をしっかり反省する必要があるように思います。
 個人的には、いわゆる「政治主導」の醜悪な部分が露骨に発揮された事案のように思います。が、文科省自身は「廃止」と言わずに「発展的解消」と言っているので、反省する気はいっさいないようです。いわゆる「無謬性原則」が露骨に表れた典型的な事例として、後代まで語り継ぐ必要があるでしょう。いつでも迷惑を蒙るのは、最前線の現場です。

複数種の取得

 小中連携(2016年に義務教育学校が登場)や中高連携を推進するために、複数種の免許取得を推奨する動きが強まっています。たとえば、小学校一種と中学英語二種を同時取得する例が増えています。

再課程認定―旧カリ/新カリ

 教育職員免許法が改訂されたために、各大学は2019年に「再課程認定申請」に対応する必要に迫られました。このタイミングで教職課程をとりやめた大学・学部もたくさんあります。世間一般にはあまり知られていませんが、未来の日本において教師の質が変化したとしたら、これが原因である可能性が高いだろうと推測します。
 業界では、2018年以前の教職課程を「旧カリ」、2019年から開始された課程を「新カリ」と呼んで区別しています。変更されたのは、具体的には「教職に関する科目」と「教科に関する科目」の調整(大括り化)でした。詳しくない人から見ればひょっとしたら些細な変更かもしれませんが、教職に関わっている立場からすると、「教職の専門性」の議論に関わって、教師観の大転換に見えます。

教職の自由化

 日本全体が新自由主義的な発想に基づく規制緩和・自由化に向かうご時世においては、教員免許制度も教職への参入障壁とみなされ、廃止を主張する人も現れるようになりました。たとえば2005年「規制改革・民間開放推進会議」は、「免許状を有しない者の採用選考の拡大」を具体的な施策として掲げました。
【参考】規制改革・民間開放の推進に関する第2次答申について(平成17年12月21日規制改革・民間開放推進会議)
 この流れを受けて、文科省は「特別免許状」制度の方針を定期的に見直してきています。文部科学大臣の発言や、2021年「「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について(諮問)」を見る限りでは、教員免許がなくても教員になれる「教職の自由化」は、さらに進行しそうです。