【要約と感想】北野唯我『天才を殺す凡人―職場の人間関係に悩む、すべての人へ』

【要約】どんな人も必ず才能を持っています。自分に与えられた才能を自覚し、活用しましょう。そのためには、職種だけでなく物事の「フェーズ」を理解することが大事です。

【感想】人間の才能を「天才/秀才/凡人」の三類型に分類するのは、プラトン『国家』が言う「哲学者/戦士/生産者」の三類型を引き継いでいる。
ただ、その三者の関係性は、もちろん本書とプラトンでは扱い方がまったく異なる。プラトン『国家』は民主主義を否定し、哲学者独裁を説いた。戦士や生産者の嫉妬は理屈と力で押さえつけるのだ。組織のアイデンティティは哲学者独裁によってこそ成立するというのが、『国家』最大の眼目だ。だがやはり、哲学者が凡人からまったく理解されないことについては、有名な「洞窟の比喩」を参照すればよいだろう。
一方本書では、三類型それぞれをつなぎ合わせるアンバサダーを設定した上で、三者それぞれが役割を分担するべきことを説く。組織のアイデンティティ(一体性)は、三者それぞれが存分に才能を発揮することで成立する。まあ、そうなんだろなあと。

【教育への参考】本書は教育書ではないが、やはり学校や教育に対する言及がある。学校や教育がビジネス目線からどう見られているかの資料にはなる。

「「だども、大体、どの組織にも『先生』がいるんや。そして、『先生』は天才を殺す。ちなみに『先生』ってのは、”たとえ”だべ」
先生……
秀才の一種。よかれと思って、天才のことを指導するが、天才にとっては好奇心を殺す存在に映る。」95頁

「ほとんどの人は「新しいこと」をしようとしたときに、周りからの攻撃にあってしまうことがおおいのではないでしょうか。その結果、「新しいことをするのは損である」と学習してしまい、創造性の芽を絶やしてしまう。
こういう構造にあると考えます。ただ、これは学校教育が「再現性」と「共感性」をベースに学ぶ場所である限り、どうしても改善しにくい面があります。」221頁

事実かどうかはともかくとして、ビジネス目線からは、学校が「創造性」や「好奇心」を潰す場所として認識されていることがよく分かるのであった。

北野唯我『天才を殺す凡人―職場の人間関係に悩む、すべての人へ』日本経済新聞出版社、2019年