【要約と感想】小笠原喜康『学力問題のウソ―なぜ日本の学力は低いのか』

【要約】ゆとり推進派も反対派も、所詮は同じ穴の狢です。学力とは何かについて本質的に勘違いしている点で、変わりありません。あらゆる領域に応用可能な「基礎学力」などというものは、幻想です。
知識とは、モノのように授受できるものではありません。それは状況に埋めこまれた「ふるまい」であって、共同体に参画することで初めて意味をもつようなコトです。
大人が一方的に与えるべき知識を決めることは不可能です。学習指導要領を大綱化し、子どもたち自身が社会に参加できるような仕組みを整えましょう。

【感想】なかなかユニークな本だった。まあ、新書だから書けるような、そこそこ迂闊な話もあるような気はするが。「構成主義」に対する批判は、かなり危ない橋を渡っているような気はする。
最終的に落ち着くところは、学習指導要領の大綱化と子どもたちの社会への参画ということで、そこだけ見るとよく聞く話ではある。が、そこまでに至るプロセスで、「児童の権利条約」から攻めるのではなく、徹底的に学力論に寄り添うところが、ユニークなのだった。
気になるのは、学力が「きちんと定義されていない」(29頁)とされているが、もちろん本書が出た2008年時点では既に学校教育法30条の定義が存在している。これに対する言及が一切ないのは、ちょっとマズい気はした。

【言質】
「個性」という言葉の用法サンプルを得た。

「それまでの大学入試が難問奇問に走りがちで、各大学の特性を活かした選抜になっていないことを解消しようとして始められた。しかし結果は、逆になった。なぜそうなったのか。それはもちろん、国立大学に受験生が選べるだけの個性が十分になかったからである。」(65頁)

小笠原喜康『学力問題のウソ―なぜ日本の学力は低いのか』PHP新書、2008年