【要約と感想】和田秀樹『「か弱き、純真な子ども」という神話』

【要約】子どもは弱くないので、かわいそうなどと思わず、適度にストレスをかけましょう。

【感想】まあ、聞くべきところが皆無なわけではないし、意気込みも分からないわけではないが、そこそこいい加減な本ではあった。専門の精神医学はともかく、教育の理論と現実に関してほとんど勉強していないにも関わらず、憶測と決めつけでかなりいい加減なことを言っている。

まず、「か弱き、純真な子ども」というイメージが生じた歴史的な経緯について、教育学を少しでも囓ったら必ず知っているはずの知識を、著者はどうもご存知ないらしい。このテーマで本を書くのに、アリエスのアの字も出てこないことには、かなり唖然とする。まずはアリエス『子供の誕生』をしっかり読んで勉強して、出直していただきたいところだ。

またたとえば「体罰」に関する見解は、かなりお粗末だ。著者は「子どもがかわいそう」だから体罰をやめたなどと言っているが、そんなことを言っている教育関係者などいない。正確には「体罰には教育的効果がないことが客観的データに示されている」から体罰には意味がないし、そもそも「法律で禁止されている」からやるべきではないということだ。「子どもがかわいそう」などと感情的なレベルの話は、誰もしていない。勘弁していただきたい。
また「根拠となる調査もなしに、東大の教育学部がゆとり教育の旗振り役になっていた」(38頁)というのは、まさに根拠となる調査もなしの決めつけだ。著者本人が根拠となる調査もなしに、憶測で決めつけているのだから、たちが悪い。というか本人が錦の御旗の如く引用している苅谷剛彦はどこの教授だったのかと。

著者の根本的な問題は「人権」というものの本質をよくご理解していないところなのではないか、という疑いを強く持つ。子どもに課す義務を大人並みにするべきという話は一生懸命にするが、主体的な権利を大人並みにしようという話はまったくしない。「甘やかす」ことと「人権を尊重する」ことの区別がついていないように見えるわけだ。

和田秀樹『「か弱き、純真な子ども」という神話』中公新書ラクレ、2007年