【要約と感想】阿部泰尚『いじめと探偵』

【要約】著者は探偵として、いじめを捜査しています。大半のいじめは先生と親が本気になれば解決できるのですが、4割ほどは深刻な事案が発生しており、そこに探偵が仕事をする場があります。
現代のいじめは、かつてとは違い、だれが被害者になるかまったく分かりません。恐喝や援助交際、レイプなど、被害も深刻化しています。いじめ被害者が自分からハイテク機器を駆使していじめの事実を押さえることで解決に向かいます。
いじめが起こるのは、子どもが大人を真似するからです。大人がマトモでないのに、子どもを子ども扱いしていじめが解決するわけがありません。

【感想】要は大人も子どもも「一人の人間」として扱われることが決定的に重要だという、基本中の基本が確認できる本だ。いじめの加害者は、被害者をモノのように扱う。しかしおそらくそれは、大人の世界で一人一人がまともに人間として扱われていないことを反映しているだけだ。まずは大人たちが、自分を人間として大切にし、同じように他人も人間として大切にしなければならない。そうしなければ、子どものいじめが減るわけがない。

本書で示されたひとつひとつの事例は、にわかには真実とは信じられない。が、読み終わった直後の思いとしては、それらが真実か真実でないかは、おそらくさほど重要な問題ではない。「誰もが一人の人間として尊重される世の中であるべきだ」というメッセージこそが極めて尊いのだと思う。
いじめ解決のための細かい技術や手段も発達させていく必要はあるだろうが、まずは「誰もが人間として尊重される」という基本中の基本が共有されることがなによりも大切だ。そこを出発点にしなければ、どれだけ法律や制度を作っても、何も変わらない。

【言質】
「人格」という言葉に関する言質を得た。

「ところが今の子供たちの場合、被害生徒、つまりいじめられている子を人間とは思っていない。そう感じることがある。いじめられている子は加害生徒にとってはオモチャであって、人格を意識しているとは思えない。」(172頁)

「人格」の本来の意味に則った正しい使われ方だと思う。

阿部泰尚『いじめと探偵』幻冬舎新書、2013年