【要約と感想】尾木直樹『子ども格差―壊れる子どもと教育現場』

【要約】「普通の子ども」が大量殺人を犯したり、自殺したりしています。いじめもなくなりません。原因は、新自由主義に基づく競争至上主義とゼロ・トレランス導入です。競争原理と管理主義によって教育現場からゆとりがなくなり、子どもたちの声を聞く姿勢が失われています。
大切なのは、子どもを一人の人間として扱うことです。子どもが主体的に社会に参加することで、自己有用感を持つようになります。大人が一方的に「いい子」を押しつけるのは、完全に逆効果です。大人が押しつけた「いい子」こそ、むしろ犯罪者になってしまう恐れがあります。大人側が「よかれ」と思って行なうあいさつ運動や「心の教育」など、なんの効果もありません。押しつけるのは、やめましょう。

【感想】民主党政権時代に書かれた本で、教育政策に関する情報には古いものも含まれる。が、教育に関する基本的な考え方は、決して古くなっていない。というか、現実のほうがほとんど変わっていないと言ったほうがいいか。
子どもの権利をしっかり保証していくことが、遠回りのようで、結局はいちばんの近道になる。教育の基本がわかる、いい本だと思う。

【言質】
「人格」という言葉の用法のサンプルを得た。

「そうした中で、大事なのは「心」です。人格が豊かに育てば、学力だって上がり、スポーツもうまくなります。」(45頁)
「子どものためと言いながらも、突きつめれば、子どもの心を顧みることも人格を尊重することもなく、ほとんど親自身の自己満足か自分の夢の実現のために、子どもに「よい子」になることを求めているのがわかります。」(180頁)

2つのサンプルで使われている「人格」の意味は、突きつめていくと実は違うものになるかもしれない。

尾木直樹『子ども格差―壊れる子どもと教育現場』角川oneテーマ21、2010年