【要約と感想】小宮山博仁『塾の力―21世紀の子育て』

【要約】学校で身に付ける「学校知」は原理や仕組みを論理的に理解するための基礎で、塾で身に付ける「受験知」はテクニックです。両方とも必要です。
これからは、学校が必要ないとか、塾が必要ないとか悪口を言い合うのではなく、力を合わせて「学ぶ楽しさ」を子どもたちに与えていくべきです。というのも、21世紀には、従来の詰め込み知識が役に立たなくなり、学ぶ姿勢や態度などのソフトスキルが重要になってくるからです。今後の入試では、創造的な力を要求する「新学力観」に基づく問題が増えるでしょう。
塾は、難関校への合格者数を誇るのではなく、自らの教育方針や理念を積極的に打ち出すべきです。保護者も偏差値に踊らされず、教育方針や理念をしっかり踏まえて塾選びをするべきです。「学校スリム化」の時代に突入し、学力が二極化することは容易に想像できますが、家庭や地域社会は頼りないので、塾の力に期待するのがいいでしょう。

【感想】ちょうど20年も前の本で、さすがに各種情報は古くなっている。が、「答え合わせ」として読むと、なかなか感慨深いかもしれない。というのは、著者は「学校から合校へ」や「学校スリム化」の政策に関わっており、本書も文科省(当時は文部省)の主張と同じ方向を見ているからだ。その視点から描かれた未来予想図がどの程度当たっているかという関心をもって読むと、そこそこおもしろい。
まあ、本書が出た直後に「ゆとり教育批判」と「学力論争」が巻き起こり、文科省が方針を一部撤回したため、本書の見通しのいくつかは外れることになった。が、大きな筋道はズレていないのかもしれない。時代の雰囲気を証言する本としては、なかなか使い勝手がいいかもしれない。

小宮山博仁『塾の力―21世紀の子育て』文春新書、1999年