【要約と感想】原清治・山内乾史編著『ネットいじめはなぜ「痛い」のか』

【要約】ネットいじめは恐ろしいぞー、たいへんだー! 子どもを守るために大人が頑張らなきゃ!

【感想】まあ、8年前の本で、諸事情はかなり古くなっており、現在の情勢を理解するにはまったく参考にならず、「かつて大人たちはこんなふうに右往左往していたんだなあ」という歴史的資料としては意味がある本ではある。

とはいえ、当時の事情を鑑みた上でも、本書自体がそこそこ「イタい」感じは拭えない。「痛い」ではなくて「イタい」。このあたりの言語感覚が分からない人がネットについて書くのは、いろいろな意味でかなり危険な気がする。本書も解釈が現実離れしていたり、数字を恣意的に扱っているところなど、ちょっと草が生えた。

ネットいじめが「イタい」のは、本書でも一部の著者が指摘しているように、「スクールカースト下位者が単独で、複数のスクールカースト上位者をいじめることが可能」(108頁)という事情が大きいはずなのだが、編著者にはその要点が最後まで分かっていないようであった。「小学生が大学教授を誹謗できる」とか「非正規労働者が社長を中傷できる」という逆転現象と、「歯止めのかからない正義=いじめられるほうにも問題がある」というルサンチマンの論理が掛け合わさったところで、現実とは異なるネットいじめの特徴が生じてくる。芸能人が一般人から中傷されて自殺するなんてことは、現実では起こらないが、ネットなら起こる。いいとか悪いとかいう話をする前に、認識しておくべきところだ。

個々の著者が慎重にブレーキを踏んでいる(136頁、159頁、174頁、193頁)のに、編著者がたいして聞く耳を持たずに持論を曲げないのが印象に残る本であった。

原清治・山内乾史編著『ネットいじめはなぜ「痛い」のか』ミネルヴァ書房、2011年