【要約と感想】すずきダイキチ『どうすれば子どもはやる気になるのか』

【要約】親が変われば、子どもは変わります。子どもにやる気がないのは、親がやる気を挫いているからです。親が先回りして何でもやってしまい、子どもに不能感を与えるからです。子どもを一人の人間として尊敬し、自発的な選択をさせていれば、子どもは自立します。大事なのは「民主主義」の精神です。
具体的には計算のドリルを「できる」ようになることによって、子どもたちは自信をつけ、自立していきました。親は命令したり威嚇したり押しつけたりせず、子どもを「勇気づける」ことが大切です。実践を支える背景には、アドラー心理学の理論があります。

【感想】25年前の本だけど、古くなっていない。子どもが本来持っている力を親が信じて、命令するのではなく勇気づけると、子どもが「できる」ようになって自信をつけていくというプロセスが、おそらく普遍的な何かに触れているのだろう。逆に言えば、この25年間で日本が進歩していないというか、むしろ逆行しているということなのかもしれない。

今の親は、消費社会のなかにあって、教育もお手軽にお金で買おうとしている。親自身が勉強して変わることを面倒くさがって、誰か他人に代わりにやってもらおうとしている。
かつては地域共同体が子育てを担っており、家族の責任は少なかった。高度経済成長以後、地域共同体の解体に伴って子育てに対する家族の責任が重くなった。しかし地域共同体の解体に対応した新しい子育てが日本ではまだ確立しておらず、伝統的な子育て方法(親の権威と命令)に頼ってしまう。これが過干渉・過保護の根源となる。
これからは本物の「個」を確立して、自立した「個」による民主主義の世の中を作り上げていくしかない。伝統的な子育てから脱却し、家族が新しい子育ての力を身に付けていくしかない。

子どもの人生は子どもの人生、私の人生は私の人生という、民主主義的な「自立した個」の感覚を身に付けるという課題は、子どもだけでなく親にも必要だ。その課題は、本書が書かれた25年前も現在も変わってはいない、普遍的なものだ。本書で印象に残るのは、首尾一貫して「大人と子どもの民主主義的な関係」の構築を訴えていることだ。

「私たちが今、子どもの教育を真剣に考え、子どもの能力を全面的に開花させようと願うならば、民主主義の原点に立ち戻って考えなければならないと思います。民主主義とは、「個の確立」が大前提だからです。」(32頁)

そして興味深いのは、その「個の確立」のために実際にやることが、抽象的な働きかけではなく、「計算ドリル」の徹底的な反復練習というところだ。何かが実際に「できる」ようになることと、その経験を踏まえた自信が、最終的に「個の確立」に繋がっていくわけだ。「個の確立」とは、決して抽象的な次元の話ではない。

すずきダイキチ『どうすれば子どもはやる気になるのか―子どもの勉強と「勇気づけ」「親子共育」の実践』一光社、1994年