教育概論Ⅰ(中高)-11

栄養・環教 7/5
語学・心カ・教福・服美・表現 7/6

前回のおさらい

・義務教育の思想。コンドルセとオーエン。
・教育権の構造。

今回の目標

・隠れたカリキュラムの概念について理解しよう。
・選抜と文化的再生産の論理を理解しよう。

資本主義と「学校」

・はたして「教育」には意味があるでしょうか? 子供たちはなぜ「勉強」しなければいけないのでしょうか? 「学校」にはどんな存在意義があるのでしょうか?
・「学校」が資本主義の世界でどう機能しているかを見えやすくするために、思考実験をしてみましょう。

【思考実験】ジャイアン・スネ夫・のび太のうち、「学校」の成績が人生を左右するのは誰でしょうか?

▼答え:のび太

▼理由:(1)ジャイアンの家は「自営業」で、ジャイアンは跡継ぎです。学校のテストの点が良かろうと悪かろうと、ジャイアンの将来の職業は変わりません。
(自営業は、誰かから給料がもらえるわけではないので、自分自身の活動によって商品価値のある物や情報やサービスを生み出さなければなりません。しかしその活動をうまく行うための具体的・実践的・高度に専門的なスキルを「学校」で教えてもらえることはあまり期待できません。)

(2)スネ夫の家は「資本家」で、自分自身が労働する必要はありません。スネ夫は出来杉くんのような才能ある人材に投資するだけで儲かるので、自分自身が高学歴である必要はあまりないわけです。スネ夫にとって「学校」とは、自分が投資するに値する有能な人間を生産してくれる場所です。スネ夫が出来杉くんにはラジコンを貸すのに、のび太には貸さない理由を考えてみてください。

(3)のび太の家は「労働者」で、自分自身が労働する必要があります。生涯賃金を上げようと思ったら、良い企業に雇用される必要があります。そのためには良い大学を出なければならないし、そのためには良い高校を出なければなりません。学校のテストの点は、のび太の人生をダイレクトに左右します。
(ちなみに、自営業は自分の活動で生み出した物や情報やサービスを売ってお金を稼いでいますが、労働者が売っているものは労働力です。そういう意味で、のび太=出来杉くんです)

(4)オマケ:しずかちゃんの生き方には「専業主婦」という選択肢が色濃く反映されています。彼女はどうしていつもお風呂に入っているのでしょうか? 「ジェンダー論」等で学んだ知見を活用して考えると、いろいろ見えてきます。

・我々の現実の目から見える教育の姿は、これまで勉強してきた「人格の完成」を目指す教育や、すべての子どもたちの学習権を保障する「義務教育」の考え方とは、大きくズレているようです。どうしてこうなっているのでしょうか?

選抜

・資本主義世界の立場によって、「学校」への期待のかけかたの重点が異なります。
・「実家の商店の跡継ぎ」になるジャイアンにとって、「学校」の試験の結果は人生にとってあまり重要なものではありません。しかし「労働者」のキャリアは、少なくとも就職先は学校でのテストの結果が大きく左右します。
選抜:学校が現実に果たしている機能を指す言葉です。学校では試験を繰り返して各人の才能と個性を測定し、進学時の配分によって才能を選り分け、社会に出る際には個性と能力に合った持ち場に適切に配置します。同じ労働者でも、出来杉くんとのび太の配置先は最終的に異なります。

隠れたカリキュラム

・学校の勉強で本当に身についているものは何でしょうか? あるいは、学校で身につけるべきだと子どもたちに期待されているものは何でしょうか?

カリキュラム:教育目的を達成するために、計画的に配列された、教育内容のことです。
・正式のカリキュラム:学校や教師が教えていると公式に表明されている教育内容です。学生や保護者や世間にとって、学生が学校で身につけることを期待している学習内容です。この学習内容をしっかり身につけた人(出来杉くん)ほど、高い能力があると考えられています。
・正式のカリキュラムは、完璧に身についているわけではありません。が、まったく人生で困らないのは何故でしょうか?

隠れたカリキュラム:教師は教えていると思っていないし、保護者や世間も学校でそれを教えているとは思っていないにもかかわらず、いつのまにか学生たちが身につけている暗黙の内容のことです。
・たとえば、勉強はつまらないし人生で役に立たない。→役に立たないものでもガマンして努力しなければならない。→つまらないし役に立たないものをガマンして身につける習慣がつきます。
・学校で時間を過ごすうちに、知識や考え方、行動様式が、意図されないまま、いつのまにか身についています。役に立つ労働者になる上では、このような習慣形成の方が、正式なカリキュラムで学ぶ知識よりも決定的に重要かもしれません。
・たとえば。遅刻しない、早退しない、無断欠席しない、授業中は席を立たない、先生の命令には無条件に従う、無意味に思えることでもとりあえずやる、相互監視する、競争する、出る杭を打つ、密告する。
・学校で身につける意識と行動様式は、すなわち、労働者として必要な意識と行動様式となります。のび太は、仮に勉強が身につかなくとも、労働者として役に立つスキルは知らず知らずのうちに身につけます。
・隠れたカリキュラムとして、他に性別役割分業に関する意識等があると考えられています。

文化的再生産

・学歴の高い親の子どもの学歴も高くなりやすいのはなぜでしょうか?
・遺伝=生物的再生産でしょうか、環境=文化的再生産でしょうか?
文化資本:これを持っている人ほど高い権力や社会的地位が与えられるような、文化的な教養です。学校で教えられる正式な内容として採用されやすいものです。もともと支配的な文化(メインカルチャー)に馴染んでいた子供は高い学歴を得て高い地位へと再生産され、支配的でない文化(サブカルチャー)に馴染んでいた子供は低い学歴を得て低い地位へと再生産されやすくなります。
・文化資本は、労働者にとってはつまらないし役に立たないように見えます。しかし文化資本を独占する人々にとっては極めて優れた意味があるように見えます。→音楽や美術に対する興味・関心を比べてみよう。あるいは文化資本が高い家庭と低い家庭では、見るテレビ番組にどういう違いがでるか、考えてみよう。
・文化資本が高ければ高いほど学校文化に親和的な人間になり、そういう人間ほど高い学歴になる傾向があります。
・が、それは必ずしも人間としての能力が高いことを意味しないかもしれません。
→しかし、いったん文化資本を独占した人々(つまり学校文化に親和的な人々)が大きな力を持ったとき、その権力を他の人間に渡さない理屈として、学歴主義は十分に機能します。支配的な地位にある人々の子供は知らず知らずのうちに支配的な地位につき、支配される人々の子供は知らず知らずのうちに支配される地位につきやすくなります。

社会関係資本

*社会関係資本(Social capital):人と人とのつながりの豊かさを表す概念です。「コネ」に似て非なる考え方です。
・経済資本や文化資本が乏しい環境であっても、社会関係資本を充実させることで教育効果が上がるという報告もあります。

復習

・隠れたカリキュラムの具体例を調べてみよう。
・選抜の意味を改めて考えてみよう。

予習

・新教育について調べよう。