【要約と感想】児美川孝一郎『キャリア教育のウソ』

【要約】文部科学省がすすめている「キャリア教育」は、極めて危険です。なぜなら、「やりたいこと」を優先して夢や理想だけ高くして、逆に現実を見られないような底の浅い若者を作るだけだからです。
現実には、自分の夢をストレートに実現できる若者は極めて限られています。本当に重要なのは、何度でも自分の進路を新しく切り開けるような適応力をつけること(キャリア・アダプタビリティ)と、社会に出て自分のポジションを確保するためのスキルを身に付けること(キャリア・アンカー)です。
そのためにも、生涯学び続けていく姿勢と、人生を引き受ける態度を身に付けましょう。

【感想】いやあ、教育と労働の接続は、ほんと、難しい問題だなあ。教育だけ変えてもうまくいかないところだし。

そもそもロバート・オーエンからイギリスの義務教育制度の成立までを考えてみれば、問題の初発から「労働と教育」はトレードオフ(労働を減らして教育を増やす)の関係にあったわけで。原理的にトレードオフの関係にあった領域を、どうwin-winで順接させるかという問題なわけで。本質的に問題を解決するためには、もはや労働と教育の原理そのものを根本的に転換するしかないわけだが、それを「資本主義-自由市場」の理論枠内で収めようとすると、また厄介なことになるのであった。いやはや。

キャリア教育は、原理的に無理なものを、小手先の工夫でなんとかしようというものであって。誰がどうやっても、小手先ではもはやどうにもならんのではないかという。「労働(おとな)と教育(子ども)がトレードオフという近代」をそもそも本質的に転換していく思想的営為が必要となるところだ。
まあそこで安易に、「前近代」から「徒弟制」が呼び起こされてしまう(インターンシップ)わけなんだけどもね。近代を否定するとして、安易に前近代に戻るのでよいのかどうかというところで「教育(子ども)と労働(おとな)」に関する原理的考察が不可欠になってくるのだった。(本書がどうこうということではなく)

いやあ、難しいなあ。

児美川孝一郎『キャリア教育のウソ』ちくまプリマー新書、2013年