【要約と感想】沼田晶弘『子どもが伸びる「声かけ」の正体』

【要約】成功体験が増えれば、子どもは本来もっている力を発揮します。ある小学校教師の学級経営が成功した体験を、ご覧あれ。

【感想】小学校の先生(を目指している学生)向けの本。うまくいった学級経営の成功体験が綴られている。ということで、「成功体験」の一例と理解して読めば、とても参考になる。「MC型授業」とか「プロジェクト」とか「おあずけの法則」とか「ダンシング掃除」とか「ディベート朝の会」とか、とても頑張っている。まず内容がどうこう以前に、ここまでアイデアをたくさん出して、具体的な実践にまで落とし込んでいく実行力に、頭が下がる。

書評を見ていると「参考にならない」って言っている人がいるようだけど、こういう生産性の欠片もない非難がいちばん有害だなあと思う。沼田先生の「子どもたちの力を引き出すためにアイデアを出して具体的な実践まで持っていく」という姿勢そのものが学びの対象じゃないのか。

ま、とはいえ、本書が「成功体験」のみで構成されていることも意識する必要はあるのだろう。本書で示された成功体験をそのままマネしても、うまくいくはずがない。どこの小学校でも取り入れられるわけではない。目の前の子どもの実態を正確に捉えられるかどうかが、まずは課題のはずなのだ。具体的な実践として何を採用するかは、それからの話だ。子ども不在で実践の話をしても、あまり意味がない。

本書から学ぶものは、「子どもたちの力を引き出すためにアイデアを出して具体的な実践まで持っていく」という姿勢(つまり教師として必要なメタ視点)なのであって、個々の具体的な実践ではないだろう。個々の具体的な実践は、目の前の子どもの特性に合わせて教師自身が工夫して捻り出していくしかない。教師自身が工夫し続けること(ソフトスキル)の尊さを読み取れず、単に具体的な実践(コンテンツ)のみに目を奪われていると、本書を褒めるにしてもけなすにしても、どちらにしてもおかしなことになるだろう。

しかしさすがに、タイトルにある「声かけ」と中身にほとんど関連がないのはよろしくないだろう。本書に違和感を抱くとしたら、その原因の大半はタイトルと内容のミスマッチにあるだろうと推測する。タイトルは「教師がチャレンジし続けると、子どもは伸びる」くらいでよかったのではないか。

沼田晶弘『子どもが伸びる「声かけ」の正体』角川新書、2016年