【要約と感想】西村秀明編著『ひきこもり―その心理と援助』

【要約】ひきこもりという表面的な行動に目を奪われて、叱咤激励するなど、対症的に引っ張り出そうという単純なアプローチは、最悪です。彼らは、ひきこもることで、傷ついた自分のこころを癒やしているのです。ひきこもりは、こころが回復するために必要不可欠な、適応のための必然的な行動様式です。
効率優先の現代社会は、システムに適合できない人々を排除して傷つけます。特に学校での出来事は、ひきこもりに極めて密接な関係を持っています。そして家族の無理解が二次的に本人を追い込みます。ひきこもりの背景には、トラウマの後遺症としてとらえられる心理的状況があります。周囲がするべきことは、表面的な症状にとらわれず、本人が傷ついた原因を知り、ひきこもるだけの事情があることを理解して、自己回復能力が機能する環境を整えることです。

【感想】本書は、ひきこもりを病気ではなく、自己回復へ向けて動物が採用する必要不可欠な行動様式と捉える。ひきこもりを原因ではなく、結果と捉える。原因を除去しないのに結果だけ変えられるわけがないのは、考えてみなくても当たり前のことである。
ひきこもりに対して、かつては首に縄をかけてでも外に引っ張り出そうという乱暴な対処が横行していたようだが、少しずつ理解が深まっているような感じもある。いじめに立ち向かう価値すらないことは、徐々に認識されつつある。そして、そもそも「学校に通うこと」が当たり前であるとは思われなくなりつつある。「学校とは何か?」という課題が、不登校やひきこもりから逆照射されつつある。

ところで本書にはひきこもり当事者の手記が3本掲載されているが、どれも非常に鮮烈であった。かなり驚いた。教育関係者は読んでおいて損はないかもしれない。

西村秀明編著『ひきこもり―その心理と援助』教育史料出版会、2006年