【要約と感想】片木悠『いじめは7時間で解決できる!―渦中にいるあなたに今できること』

【要約】教師の力で、いじめは必ず解決できます。ポイントは、教師が集団として足並みを揃えること、確実な情報を手に入れること、加害者側を徹底的に指導すること(泣いて反省するまで)、短期集中決戦、です。

【感想】「7時間で解決」ってどうなんだろう?と思って読み始めたわけだが、実質的にはやはり7時間で終わるわけはなかった。実際の指導開始から終了までが「7時間」なのであって、準備期間やクールダウン期間を含めた実質的な時間はかなりの長期間に渡っているのだった。まあ、当然ではある。「7時間」ってタイトルは、編集者のつけた煽り文句なんだろう。いやはや。

で、なかなか生々しい話で、とても興味深く読める本だった。「教師がチームとして一丸となる」とか「加害者が100%悪い」とか「毅然とした態度」とか、抽象的な文面でお目にかかることはたくさんあっても、具体的な事例として語られることはあまり多くない。本書は抽象的な記述を排して、とことん具体的に迫ってくる。迫力と説得力がある。
「泣くまで反省を迫る」という見出しを目次で見た時は少しギョッとしたわけだが、中身を実際に読んでみると教育的配慮がなされていてホッとした。加害生徒の善いところをしっかりと事前準備で把握しておいて、その善いところを前面に打ち出して指導していくと、だいたい感極まって泣き出すのだそうだ。悪いところを詰めて泣かすのではなくて、よかった。
そんなわけで、抽象的な表現に終始する類書に飽き飽きとしている方々には、示唆するところが多い本かもしれない。

とはいえ気になるのは、いわゆる「ゼロ・トレランス」と紙一重に見えるところだ。ゼロ・トレランスと本書の実践が本質的に違うとしたら、ゼロ・トレランスが信頼関係抜きでの単なる形式的な懲罰関係に終始するのに対し、本書の実践は実質的な信頼関係に立脚した個別対応をしている点なのだろうと思う。教師に対する信頼と生徒の個性に応じたきめ細かい対応が欠けている時は、おそらくゼロ・トレランス的な悲劇が起きる。
そんなわけで、表面的に本書の実践だけを真似しようと思っても、なかなか上手くいかないだろうなと思う。日頃からの信頼関係構築や情報収集ルート確保といった地道な活動を続けることで、決定的な場面で効果的な実践が可能となるのだ。単にいきなり「毅然とした態度」を取るだけで、物事が上手く運ぶわけがない。

片木悠『いじめは7時間で解決できる!―渦中にいるあなたに今できること』光文社、2012年