【要約と感想】木村育恵『学校社会の中のジェンダー―教師たちのエスノメソドロジー』

【要約】学校がジェンダー構造を再生産するという指摘は行なわれてきました。教育へ男女機会均等は実現しているにも関わらず、現実には男女で学業達成に大きな差が生じます。この原因が学校教育による「性役割の社会化」にあることは明らかになっています。本書が目指すのは、性役割再生産メカニズムに対して教師文化がどのように関わっているかです。それによって、個々の教師の意識を超えて、学校教育全体が担う「隠れたカリキュラム」を浮き彫りにし、自覚的な実践に繋がることを期待します。
具体的なアンケート調査や観察によって分かったことは、教育現場に相変わらず「性別特性論」が根強く、ジェンダーに関する議論や実践に停滞と揺らぎをもたらしていることや、学校段階や教科によって実践に偏りがあることです。教師集団自体に性別役割分業やジェンダー秩序が持ち込まれているとともに、他学級の実践や事情に介入しにくい教師集団の閉鎖的特質と官僚的集団同調圧力の下で教師個人の個性的な実践が行なわれにくいことが根本的な問題です。逆に言えば、教師同士のタテ・ヨコの関わりを持ちやすい教師文化を醸成すれば、ジェンダーに関する教育実践が深まっていくだろうと期待できます。
また、教員養成や研修において男女共同参画が大きなテーマとなっていないことも分かりました。理論と現場が乖離している原因はこのあたりにもありそうです。

【感想】「性別特性論」が極めて根強いのは、学生の様子を見ても伺える。「ピュシス=自然の法/ノモス=人為の法」の区別がまったくついていないし、区別をするという観念自体が存在していない。「人為の法」を人為と思わず「自然の法」だと誤認することは、単にジェンダーの問題だけでなく、民主主義(社会契約論)を成立させる際にも極めて大きな障害となる。なかなか厄介だなあと思う次第。

木村育恵『学校社会の中のジェンダー―教師たちのエスノメソドロジー』東京学芸大学出版会、2014年