【要約と感想】星一郎『アドラー心理学で「子どものやる気」を引き出す本』

【要約】子育てに悩むお母さんに向けて、アドラー心理学の知見を背景とした具体的なアドバイスが記されています。最大のポイントは、お母さんもお子さんも「自分を好きになること」です。

【感想】意外なことはあまり書かれてはいない。あるいは、同じようなことはアドラー心理学を特に学んでいなくても言える。まあ、子育ての方針に悩んで迷って藁をも掴む思いに駆られて自分を見失っている親には、距離を置いて一息つき、いったんクールダウンさせてくれる良い本なのだろう。
とはいえ、頭で理解したとして、具体的な実践に移すとなると、まず自分自身をコントロールする作法から身に付けないと、なかなか難しいかもしれないなあとは思うのだった。そしてそれができるなら最初から苦労しないという。

【個人的研究のためのメモ】
「人格」に関するいくつかの用例をピックアップしておく。

「アドラー心理学では、前者のようなほめ方はあまりよしとしません。「いい子」というのは子どもの「人格」への評価であって、お手伝いという行動そのものに対する称賛ではないからです。」(39頁)

「さきほど、親は子どもを叱るのではなく、子どもに意見を言うことが大切だとお話ししました。その場合に、忘れてはならないことがあります。それは、子どもの人格自体を責めてはいけない、ということです。」

フロイト精神分析学は、「人格」を「近代的な個」としては理解せず、さらに細分化(自我・エス・超自我)した。「人格」そのものに焦点を当てていかない。またあるいはユングは「人格」を「近代的な個」としては理解せず、さらに大きなもの(共同的無意識)へと溶解させた。「人格」そのものに焦点を当てていかない。それに対してアドラー心理学は、人間をindividual=不可分な「個」として理解しているようだ。引用したところにも、そういう理解の一端が見られるように思う。「人格」という近代的概念と最も親和的な体系であるように見えるが、さて。

星一郎『アドラー心理学で「子どものやる気」を引き出す本―”本当に響く”ほめ方、叱り方、励まし方』三笠書房、2016年