【紹介と感想】南本長穂・伴恒信編著『子ども支援の教育社会学』

【紹介】教育社会学の知見を広く集めた学生用のテキストです。

【感想】幅広い教育社会学的トピックが扱われているのはいいとして、それぞれ分量が極めて少なく、個人的には食い足りない。まあ、学部一年生にとってはこれくらいがちょうどいいという判断なのかなあ。
まあ、エリクソンのアイデンティティ論に対する批判の言質をとれたのは、個人的な収穫ではある。

 

「これまでの生涯発達論は1950年代以降の人類にとって比較的好運な右肩上がりの安定した経済成長時代の産物であって、成長神話の崩壊した21世紀にそぐわない発達論となってきているのではないだろうか。」(24頁)

「しかしながら無藤(1999)は、「自分自身のあり方・生き方について悩んでさまざまな試行(役割実験)をしながらいくつかの選択肢を検討して自分自身の判断をしていくといった、いわば、自立的独立的な自己確立の経過は優勢ではなくなってきている」と現在の若者たちの思春期や青年期の発達が従来の発達課題理論では考察できない可能性を指摘している。」(48頁)
無藤清子「青年期とアイデンティティ」『アイデンティティ』日本評論社、1999年

「社会学では現在アイデンティティは、絶対的で唯一に確立されるものという捉え方ではなく、石川(1992)の指摘するように「わたし」とはアイデンティティの州尾久、アイデンティティの束という捉え方になってきている。」(49頁)
石川准『アイデンティティ・ゲーム』新評論、1992年

南本長穂・伴恒信編著『子ども支援の教育社会学』北大路書房、2002年