【要約と感想】ポール・タフ『私たちは子どもに何ができるのか―非認知能力を育み、格差に挑む』

【要約】アメリカの教育の話です。現在、経済的な格差がますます拡大し、貧困家庭の子どもが半数を超えました。子どもたちが自分の境遇を乗り越えるために決定的に重要なのは、幼少期(特に3歳まで)に身につける「非認知能力」です。そして非認知能力を育てることは、数学や社会の知識やスキルを教えることと決定的に違います。人間関係を中心とした「環境」が非認知能力を育みます。幼少期に心理的な傷を負った子どもは、大人になってから人生に躓きやすくなります。非認知能力を育まずに青年になった学生でも、教師が期待や信頼感を寄せれば、成長へ向けて内的動機を取り戻し、立ち直ります。学習指導では、上から教え込むのではなく、学生に主体性を持ってやりがいのある課題に取り組ませるのが効果的です。

【感想】アメリカ人の著者は、日本の算数教育をべた褒めしている(136頁)。アメリカの算数が上からやり方を教え込んでもっぱらドリル計算するのに対し、日本では子どもたち自ら試行錯誤を通じて問題に取り組む。この自ら考えるスタイルが日本の数学的リテラシーの優位性の理由というわけだ。

また、著者は「教室によりよい環境をつくりだす方法について教師が訓練を受けると、生徒の成績に目に見えて影響が出る。」(123頁)と言っている。そうなのだ。実はこれ、日本の先生たちが従来(それこそ100年前)から行なっている「生活綴方」とか「学級経営」と呼ばれる手法に他ならない。学級経営が上手くいくと学力がついてくるというのは、昔から教師の間で経験的に語り継がれてきた伝統だ。あるいは諏訪哲二などプロ教師の会の見解でもある。これがアメリカ式の数字によるエビデンスでも明らかになったということだ。

ひるがえって、現在の教育評論の中には、教師たちに学級経営させずに専ら学習指導に専念させようという意見が散見される。極論すれば、「塾」のようなもので十分という見解だ。日本の伝統を否定し、アメリカ式にするほうが良いという見解だ。そんな中、アメリカ人の著者が「日本に見習え」と言っているのは、いやはや、隣の芝生は常に青いということかどうか。

ポール・タフ/高山真由美訳『私たちは子どもに何ができるのか―非認知能力を育み、格差に挑む』英治出版、2017年