教育概論Ⅰ(中高)-7

栄養・環教 5/31
語学・心カ・教福・服美・表現 6/1

前回のおさらい

・コメニウスの教育思想。
・市民革命の経緯と理屈。人格の完成を目指す教育。

今回の目標

・自由とルールの関係について理解し、モラトリアムという言葉の意味を理解しよう!
・カントの教育思想を知ろう!
・憲法の役割と存在意義を再確認しよう!

自由とルール

・個人主義(ワガママで自分勝手=みせかけの自由:自然権)から個人主義(自主・自律=ほんものの自由:自然法)へ。資本主義(経済原理)に民主主義(政治原理)を追加します。
・教育とは、自由でないようなもの(子ども)を、自由にする(大人)ための営みです。
・子供は不自由で、大人が自由? →子供は生理現象に無条件に従わざるを得ませんが、大人は同じ生理現象に対しても様々な選択肢を持っています。
・モノは物理法則(生理現象)に従わざるを得ませんが、人格を持つ者は自分でルールを作ってそれに従うことができます。
立法能力:自分でルールを作って、自分で守ることができるような力のことです。他人の作ったルールに従う(他律)のではなく、自らの意志でルールに従う(自律)ことができる力のことです。

カント Immanuel Kant

・1724年~1804年。ドイツ出身。
・著書『教育学講義』『純粋理性批判』『実践理性批判』
・名言「人間は教育によってのみ人間となる。」「人間は教育されなければならない唯一の被造物である。

理性

*理性:人間だけが持っている(つまり他の動植物は持っていない)であろう、ルール(法則)を発見する力です。カントによれば、モノについてのルールを発見する力(純粋理性)と、人格についてのルールを発見する力(実践理性)は、別のものです。
*科学(純粋理性):モノに関するルール(法則)を発見し、利用する手続きのことです。個物の観察から普遍的ルールの洞察に至ります。
*法と道徳(実践理性):人格に関するルールを発見し、従います。
→人間に固有の「理性」を育むことが、「人格の完成」への第一歩です。

モラトリアム

モラトリアム:執行猶予。労働や義務や責任から免除されている期間を意味します。責任を追及されず、失敗が許される代わりに、自分でルールを作ることは許されず、大人から管理・拘束され、理性を獲得するために、指導・教化を受けなければなりません。
現代では、思春期・青年期が拡張して、大人と子供の距離が広ががり、モラトリアム期間が延びたといわれています。

小テスト

憲法と教育の自由

・人間の権利と自由を保障するために、憲法というものが存在しています。

思考実験:法律を破ったことはありますか?

・市民は、リーダーが作った法律は従う義務があります。法律を破ったときには、ペナルティが課されます。
・法律は、それぞれの市民が平和かつ幸福に暮らすことができるよう、選ばれたリーダーによって定められます。
・市民は、法律を破ることはできますが、憲法を破ることはできません。法律と憲法は、どこがどう違っているのでしょうか?
・そもそも憲法を守る義務があるのは誰でしょうか?→日本国憲法第99条。
・憲法は市民に何を期待しているのでしょうか?→日本国憲法第97条と第98条。

『日本国憲法』第十章 最高法規
〔基本的人権の由来特質〕
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

〔憲法尊重擁護の義務〕
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

基本的人権

基本的人権:誰がリーダーになったとしても、絶対に人々から奪うことができない生まれながらの人間の権利です。性別や身分や才能などの特殊性に関係なく、あらゆる人が平等に持っている普遍的なものです。*確認:多数の専制の怖さ。
自由権:国家が侵害することができない、個人が持つ権利です。「国家からの自由」のことです。具体的には、身体の自由、財産の自由、居住の自由、職業選択の自由、教育の自由などなどがあります。
教育の自由:自分の子供をどのように教育するかは、国家から関与されることではありません。←信仰の自由:どのような思想信条を持つかについて、国家が個人に命令することはできません。

教育基本法と日本国憲法

・教育基本法は、1947年に日本国憲法と一体のものとして制定され、準憲法的性格を持つと考えられています。→つまり、教育基本法を守らなければいけないのはリーダーの側であって、一般国民は守らせる側ということになります。

近代西洋(17~18世紀)の教育思想

・神に与えられた人間固有の理性を育もうという姿勢や、私教育を重視して学校を軽視する態度が共通しています。

ロック John Locke

・市民革命、経験主義。
・1632年~1704年。イングランド出身。
・主著『市民政府論』(政治思想)、『人間悟性論』(認識論)、『教育論』あるいは『教育に関する一考察』(教育思想:翻訳が異なるだけです)
・キャッチフレーズ:紳士教育タブラ・ラサ(白紙説)
・名言:健全なる精神は健全なる身体に宿る。←まず体育(食物、睡眠、居住環境など)の重要性を強調しました。
・身分制を反映した古い教育を否定して、新しい市民社会を担う紳士(ジェントルマン)を作ることを目指す教育です。自発性を重視して詰め込み教育を否定し、大人になってから役に立つ習慣形成を重く見ました。

ルソー Jean-Jacques Rousseau

・市民革命、ロマン主義。
・1712年~1778年。ジュネーヴ出身。
・主著『社会契約論』(政治思想)、『人間不平等起源論』(政治思想)、『新エロイーズ』(恋愛小説)、『エミール』(教育思想)
・キャッチフレーズ:子どもの発見消極教育
・名言:万物を創る者の手を離れるときはすべてよいものであるが、人間の手に移るとすべてが悪くなる
・子供期の独自性を初めて主張しました。消極教育とは、書物による早期教育をいましめ、まず自然による教育(たとえば感覚の訓練など)を重視する姿勢を指します。また、思春期や青年期の持つ独特の意義について意識を向けたのも大きな特徴です。

復習

・「自由」とは何か、自分なりに深めておこう。
・「憲法」の役割と意義について、しっかり理解しよう。

予習

・「人格」「個性」「アイデンティティ」「自己実現」という言葉について調べよう。

発展的な学習の参考

ジョン・ロック『教育に関する考察』:新しい時代にふさわしい紳士教育の形が示されています。
ジャン・ジャック・ルソー『エミール』:普遍的な「人間」をつくるという、まったく新しい教育の姿が描かれています。