教育原論(保育)-2

短大保育科 4/18・4/20

前回のおさらい

・幼稚園と保育園が別れている理由。
・「育」と「保」と「教」という漢字の成り立ち。
・「教育基本法」は日本全体の教育の方向性を規定した法律です。幼児教育についても規定しています。
・教育の目的は「人格の完成」です。幼児教育は「人格形成の基礎」に関わる仕事です。

今回の目標

・教育とは「人格の完成」を目指すものであって、「知識の獲得」を目指しているものでないことを、大昔の偉人の思想から学ぼう!
・大人と子供の境界線の存在と理由を意識しよう!
・子供に関する学説のあらましを理解しよう!

教育って何ですか? 西洋古代篇

・教育とは、先生から生徒に「知識」を授けるものではありません。
・ソクラテスの思想:無知の知産婆術・汝自身を知れ
※無知の知:「知らない」ということを知っている。
※産婆術:対話相手の内部に眠っている知恵を出産させる技術。
※汝自身を知れ:いちばん知る意味がある知識とは?
→教育とは、自覚していない「わたし」を引き出すお手伝いです。単に外側から知識を付け加える仕事ではありません。「ほんもののわたし」とは!?

・プラトン 哲人政治・イデア論・アカデメイア
・アリストテレス 万学の祖・リュケイオン

小テスト

大人と子供の境界線

・「人格の完成」とは、日常的なことばで簡単に言い換えれば、「大人になる」ということになります。
・「教育」とは、「子供」だった存在を「大人」へと成長させる手助けと言うこともできます。

【思考実験】「子供」と「大人」の違いとは?

▼自分が「子供」なのか「大人」なのか、生活を振り返って考えてみよう。

子供と大人の境界線アンケート

・現在は、様々な基準で大人と子供の間に境界線が引かれています。
・たとえば、労働(働いているのが大人、働いていないのが子供)、経済的自立、年齢制限(酒や煙草を許されるのが大人、許されないのが子供)、選挙権、結婚、子供を持つなどという基準が考えられます。

【思考実験】「子供」とはどういう存在か?

▼あなたは「子供」をイメージすると、どういう言葉を思い浮かべますか?

子供に対するイメージアンケート

・子供は……かわいい・守ってあげたい・将来の世の中のために大切・初々しい・無邪気・純粋・天真爛漫
・しかし実は、日本でもヨーロッパでも、「子供」をこのように考え始めたのはそう昔の話ではありません。
・かつて、「大人」と「子供」の間には、現在のような明確な境界線はありませんでした。

子供はいなかった?

・かつての世界では、「7歳」という年齢が大きな境界線となっていました。
労働:7歳以後、人々は働いていました。つまり大人たちの仲間として世界と関わっていました。子供の仕事としては、日本では柴刈りや馬引、水汲み、子守などに従事している姿が絵の中に残されています。
遊び:同様に、遊びは子供だけの特権ではなく、大人も一緒に楽しむものでした。日常生活のなかに、定期的に「遊び」が組み込まれていました。
→昔は、労働や遊びという点で、大人と子供に明確な区別はありませんでした。

生理的早産

・人間以外の高等哺乳類は、誕生してからすぐに親と同じような行動をとることができます。しかし人間の赤ん坊は「能なし」で生まれてきます。他の高等哺乳類と同じだったとしたら、人間はあともう一年は母親の胎内にいる必要があります。
・この一年早く生まれてくることを「生理的早産」と呼びます。この特徴こそが、人間を人間たらしめているのかもしれません。
・生物学的・自然科学的な過程によって必然的に成長が決められるのではなく、歴史的・文化的な過程によって選択的に成長が決まります(たとえば、箸を使うのか、フォークを使うのか)。ここに人間らしい「個性」が生まれるわけです。
【参考文献】ポルトマン『人間はどこまで動物か』

小テスト

人間はどこから人間か?

・かつては「7歳」に境界線がありました。7歳未満の存在が「人間」として扱われていなかったのではないかという疑惑は、埋葬、捨て子、マビキなどの在り方に見ることができます。
・妊娠中絶は殺人か? →昔と今とでは、「なかったことにする」という意味で、やっていること自体は変わりません。単に「どこから人間か」という境界線が移動しているだけなのかもしれません。

復習

・次の記事を読んでおこう。
ソクラテスの教育思想―魂の世話―
・「子供」が「大人」になるとはどういう意味なのか、自分の生活を振り返って考えてみよう。
・アリエスやポルトマンの学説を確認しておこう。

予習

・「イニシエーション」という言葉の意味を調べておこう。
・イニシエーションの具体例をいくつか調べてみよう。
・昔の人が、何歳で父親や母親になっていたのか、調べてみよう。

参考文献

フィリップ・アリエス『<子供>の誕生』
主にフランスにおいて「子供期」がどのように生じてきたかを分析した社会史研究書。中世まで人々は子供に無関心だったが、17世紀から子供と大人の間の境界線が厚くなっていったという見解。

カニンガム『概説子ども観の社会史』
ヨーロッパと北米において、子どもの実際と観念がどのように変化したかを概観した社会史研究書。20世紀における急激な変化を強調。

柴田純『日本幼児史』
日本において7歳という境界線がどのように生じたかを分析した歴史学の本。古代・中世の人々は子供に対して無関心だったが、江戸中期以降に子供に対する心性が大きく転回したという見解。