【要約と感想】松岡享子『子どもと本』

【要約】読書は子どもを幸せにします。子どもは子どもなりの力で本を読んでいます。大人がつまらないと思う本を子どもたちが喜ぶのには、理由があります。昔話を分析すると、その理由がよく分かります。大人たちが読書活動に粘り強く付き合うことで、子どもたちは必ず本を好きになります。
子どもたちの読書に専門的に関わる「人」を育てることが急務です。この50年間で、図書館の数や本の貸出量は増加し、それはとても素晴らしいことですが、一方で専門家はあまり育っていません。
子どもたちの読書活動の質を向上させるために、専門家は絶対に必要です。本は消費者が勝手に選べばいいという意見もありますが、それは単に責任を放棄しただけの愚かな見解です。図書館の蔵書を育て鍛え上げていくには、専門家の力が必要です。それは図書館の歴史が証明しています。

【感想】熱量がすごい本だった。著者の人生と価値観のありったけを凝縮したような感じがした。現状に対する危機感も、よく伝わってきた。

図書館に関して、硬直的な行政の中で専門家が育たないという問題と、規制緩和による図書館民営化によって土台が掘り崩されるという問題は、日本の悪いところの両極端が象徴的に現れているように思う。この問題は、私の専門である「教育」の領域にも見られる。あるいは日本全体に共通して見られる。どうして問題の立て方を「硬直的な行政/無責任な民営化」の二択にしてしまうのかという間抜けさだ。みんなが幸せになる道は、そのどちらにも傾かない「中庸」にあるはずなのだが。まあ中庸を行くのは、古来より一番難しいものではある。
極端に偏らず、みんなが幸せになる中庸を行くポイントは、「公共性+専門性」だろうと思う。本書は、その良質なエッセンスを示してくれているように思う。その逆が「自己責任+サービス化」だ。しかしいま、現実に世界を覆っているのは「自己責任+サービス化」の大波だ。
本書に示された危機感は、単に図書館だけに関わる問題ではなく、日本や世界の趨勢を端的に示しているのだと思った。

松岡享子『子どもと本』岩波新書、2015年