【紹介と感想】貝ノ瀬滋『図説コミュニティ・スクール入門』

【紹介】著者は東京都三鷹市の教育長として小中一貫システムとコミュニティ・スクールの創設に関わっているので、制度の意義や効果の説明に説得力があります。コミュニティ・スクールの必要性や教育効果の他、「小中一貫教育」との関係、「チーム学校」との関係、「地域学校協働本部」との関係、既存の「学校評議員」制度等との関係、「地方創生」への効果、具体的な人材配置や組織交流の工夫など、広い視野から実践的な話題を扱っています。図表が多く、わかりやすい構成になっています。

【感想】コミュニティ・スクールに関する法律や制度は近年めまぐるしく変化しているわけだが、本書は2018年現在では最新の制度に則って記述されている。既存の制度との関係や違いにも丁寧に触れられていて、コミュニティ・スクールへ移行する道筋も分かりやすい。教員志望者向けというより、教育行政関係者や学校管理職の先生、あるいは社会教育主事など、実践的にコミュニティ・スクールに関わろうとする人には大いに参考になる本だろうと思った。特に東京都三鷹市での実践は、制度導入に反対する教員へ夏休みの間に個別に事前根回しした生々しい話なども含めて、現場で奮闘した人間にしか語れない内容が多く、とても興味深く読める。

とはいえ、不満というか無い物ねだりというか、本書で扱われているコミュニティ・スクールは地域の社会資本を学校運営に活かす組織ではあっても、もともと規制改革論者が導入を主張していたチャーター・スクール(校長のマネジメント権限や人事権を強化した上で地域と民間が契約を結ぶような形態)のように学校ガバナンスの大変革を目指すものではない。コミュニティ・スクールという概念が抱える歴史的な複雑さや規制緩和に絡む利害関係の錯綜ぶりの一端すら記述に見えないことに関しては、多少不安を感じなくもないのだった。ガバナンス形態の検討を置き去りにして無条件的にコミュニティ・スクールを普及させることは、ひょっとしたら、公教育を崩壊させる条件になる可能性すらあるのだ。まあ、本書で紹介されているような地域と密接に結びつきながら社会資本を効果的に調達する形のコミュニティ・スクールであれば、そういう心配はないのではあるが。
それから、誤字や「てにをは」の間違いが多かったので、もうちょっと編集者が頑張ってもいいのかなとは思った。

貝ノ瀬滋『図説コミュニティ・スクール入門』一藝社、2017年