【要約と感想】西村賀子『ギリシア神話―神々と英雄に出会う』

【要約】複雑な体系のギリシア神話をテーマごと(たとえば女神・オリンピック・怪物・星座など)にまとめてくれて、分かりやすくなっています。また単に神話の概要紹介だけでなく、その背景となる考古学的な知見やジェンダー論的な考察も加わって、ギリシア神話を多角的に理解することができます。

【感想】ギリシア神話が家父長的な体系を取る以前の大地母神の在り方について、とてもよく分かった。ゼウスを筆頭とする男性神たちの暴虐ぶりとヘラーの嫉妬の酷さに対して違和感を持っていたわけだけど、先史時代の母系制社会が家父長的な体系に組み替えられる経緯を踏まえれば合理的に理解できる気がする。悪女とされるクリュタイムネストラの扱いの変遷についても、家父長制の傾向が強まるに従って扱いが悪くなることについて、なるほどと思った。女性ならではの視点が私に取っては新鮮で、とてもおもしろく読んだ。単なる入門書ではなく、ある程度ギリシア神話を知っている人にとっても様々な発見をもたらしてくれる本であるように思う。

西村賀子『ギリシア神話―神々と英雄に出会う』中公新書、2005年