【要約と感想】丹下和彦『食べるギリシア人―古典文学グルメ紀行』

【要約】ギリシア人の日常生活を理解するために、文学等に現われた「食」の在り方を眺めてみました。ホメロスが描く英雄叙事詩には驚くほど食の姿が現われず、特に魚に対しては極めて冷淡ですが、実際には当時の一般民衆は魚が大好きでした。特に鰻は絶品だったようです。酒を薄めて飲んだり、手掴みで食べたり、寝そべりながら宴会をする様子は、現在の我々の生活の在り方とはずいぶん異なっています。

【感想】エッセイのような文章で、気軽に読める。が、具体的な事例を詩や劇の中から博捜しており、とても勉強になる。
面白い研究には2種類あって、一つの事例分析に特化して最終的に物事の全体像を明らかにする「一点突破全面展開」のやり方と、この本のように「領域横断的」に幅広い史料から共通素材を取りだして物事を再構成するやり方がある。領域横断的にテーマを貫く作業はとてもおもしろく、自分でも真似してみたくなるわけだが(たとえば眼鏡っ娘研究はその類に当たる)、幅広い知識と深い教養が欠かせないことがよく分かる。研鑽を積まねばならない。
それはそうと、ウナギ食べたいなあ。

丹下和彦『食べるギリシア人―古典文学グルメ紀行』岩波新書、2012年