【要約と感想】河島英昭『ローマ散策』

【要約】ローマはどうして永遠の都となったのか。その理由をイタリア文学者の河島さんがブラブラ歩きながら、解き明かします。

【感想】豊富な知識と教養に裏打ちされた歴史・地理・文学の描写が有機的・立体的に織り合わさり、精緻でありながらダイナミックな文体が交響曲のように迫ってくる、なかなかの怪書だと思う。立体的に厚みを感じさせる文体になっているのは、複合的なモチーフが相互に重なりながら繰り返されつつ、全体的な統一感を織りなしていくからだろう。通奏低音を構成するのは、ローマ市街を構成する7つの丘、地下に張り巡らされた地下道と地上に現われる数々の噴水、14のオベリスクとそれらを繋ぐ街路だ。これら通奏低音が代わる代わる現われながら次第に統一されていく過程で主旋律を構成するのが、古代・ルネサンス・バロックを代表する建築・芸術と文学作品だ。そこに20世紀の著者の想いが幾重にも積み重なって、交響曲的な文体ができあがる。よく一つにまとまったなあと。ローマ2500年の歴史と著者の人生がソナタ形式(あるいは弁証法)のように止揚された著作だと見るのは、あまりにもドイツ的に図式的で、失礼な見方であろうか。

河島英昭『ローマ散策』岩波新書、2000年