【要約と感想】ヘーシオドス『仕事と日』

【要約】怠け者でロクデナシの弟よ、ちゃんと働け! ちなみに人間が働かなくてはならないのは、神様がそう定めたからです。農業のやりかたについての具体的なアドバイス付き。

【感想】ギリシア神話の最古の古典の内の一つということだけれども、ニートの弟への語りかけという体裁は、ちょっと微笑ましい。というか、ニートの弟を働かせるための説得手段が壮大な神話体系になるところが、古代感覚というところか。

多少気になるのは、プラトンやアリストテレスの時代になると、労働があまり尊いものと見なされなくなっていることだ。労働はもっぱら奴隷がするべきものであって、自由人は観照的生活を送るのが最高だという価値観となる。しかしそこから300年ほど遡るヘシオドスでは、労働が最高に尊いものと見なされている。この違いは、300年という時代の違いのせいなのか、アテネとの場所の違いのせいなのか、それともヘシオドスの個性によるのか。本書を一読するだけでは、分からないのだった。

【個人的備忘録】

労働に価値を認めるのは、プラトンやアリストテレスには見られない記述だ。とはいえ、「労働は決して恥ではない」と言っているということは、逆に言えば「労働は恥」とする価値観が一般的に存在していたということかもしれない。ヘシオドスの価値観が当時のギリシア世界をどれだけ代表しているかは、気になるところだ。

「労働は決して恥ではない、働かぬことこそ恥なのだ。」311行
「これからわしの説くようにせよ、労働につぐに労働をもってして、弛みなく働くのだ。」382行

あと多少気にかかるのは、処女を善いものとする記述があるところだ。処女を重んじるのは近代的な価値観という話をしばしば見かけるところだが、2700年前にもテキストとして存在していることは知っておいていいかもしれない。まあ、ヘシオドスがミソジニーかつ結婚悲観論者であることは、「嗜みを躾ける」という記述に影響しているかもしれない。

「嫁には生娘をもらえ、さすれば妻として心うべき嗜みを躾けることができる。」699行

ヘーシオドス『仕事と日』松平千秋訳、岩波文庫、1986年