【要約と感想】菅豊彦『アリストテレス『ニコマコス倫理学』を読む―幸福とは何か』

【要約】アリストテレスの狙いは「徳の論理的基礎づけ」ではなく、「道徳的発達論」にあります。

【感想】ニコマコス倫理学は教育学の本だったのか! という、目から鱗を落としてくれた本。続編の『政治学』がほとんど教育学の本であることについては私も声高に主張したわけだけど、そんな牽強付会な私ですらニコマコス倫理学を教育学の本とは読んでいなかった。なんたる不覚。アクラシアをめぐる考察を発達論的に読むとニコマコス倫理学の構造が分かりやすくなるとは、言われて初めて気づいたけれども、言われてみれば「そりゃそうだ」って感じだ。

しかし『ニコマコス倫理学』に対する私の感想文を読み直してみると、教育に関わるところにはしっかり反応していて、徳に対する教育可能性とか習慣づけの意味についてはちゃんと引用してあったりする。それにも関わらず、全体を通じて教育学として理解する視点を持ててないとは、いやはや、先入観って怖いなあ。

ともかく、教育学者の私としては、本書を「完成した人格を対象とした倫理学の論理的基礎づけ」ではなく「人間の教育可能性の追究」として読む態度に、激しく同意なのだった。自分の不明を明確に認識させられた点で、読んで良かった一冊であった。『ニコマコス倫理学』本体も読み直さなくては。

菅豊彦『アリストテレス『ニコマコス倫理学』を読む―幸福とは何か』勁草書房、2016年