【要約と感想】アリストテレス『弁論術』

【要約】説得は、技術です。説得方法は主に3つあります。すなわち、(1)いい人と思われる(2)相手の感情に訴える(3)論理性です。本来なら論理性を貫くことで説得できることが望ましいのですが、残念ながら大衆の頭が悪いためにうまくいかないことが多いでしょう。仕方ないので、いい人に見られる技術や、手軽に相手の感情を揺さぶる様々な方法を身につけていきましょう。
そんなわけで、「弁論術」とは、弁証術(論理一貫性を追究する技術)と倫理学(人間の性格を見極める知恵)を土台として構成される、説得の技術です。

【感想】人間の「性格=エートス」に関する記述が、当初思っていたよりもかなり多い。人格心理学の教科書では、人間の性格を記述した古典としてテオプラストス「性格論」が挙げられることが多いわけだが、テオプラストスの同僚であったアリストテレス「弁論術」も無視できない古典であるように思った。アリストテレスがやったように年齢(青年/老年/壮年)によって性格を類型化することが、当時から一般的に行われていたことなのかどうか、要確認事項。
しかしまあ、一般大衆をバカにして、どうせ論理が通じないようなバカ相手には感情に訴えかけた方が手っ取り早いと繰返しているところは、なかなかヤバい。

【個人的備忘録】論理よりも人柄
「優れた人物には、その言論が正確であると思われるよりも、人間が立派だと思われるほうが相応しいのである。」1418a-b
【個人的備忘録】個人の「性格」と国制「性格」の類比
「ところで、説得は、論証的議論のみならず、性格をよく表わしている議論によってもなされるのであるから(なぜなら、論者が或る性格の人物であると思われることで、つまり、彼がよい人間、もしくは好意的な人間、もしくはその両方、であると思われる場合に、われわれは彼に真を置くからである)、われわれは、国制のそれぞれが持っている性格を把握しておく必要があろう。というのは、各国制が持っている性格は、当の国制にとっては、当然、最も信頼のおけるものであるに違いないからである。だが、それらの性格は、個人の場合と同じ手だてによって把握されることができよう。なぜなら、性格は何かを選択するときに顕わとなるものであるが、ところが選択は目的に照らして決まるからである。」1366a

アリストテレス『弁論術』戸塚七郎訳、岩波文庫、1992年