【要約と感想】F.M.コーンフォード『ソクラテス以前以後』

【要約】ソクラテスの出現によって、哲学は決定的に変化しました。ソクラテス以前には、哲学は自然の秘密を解き明かすことに力を注いでいました。が、ソクラテス以後は、人間に関心を向けることになり、プラトンとアリストテレスに伝統が引き継がれていきました。

【感想】本書が主張するような、イオニア自然哲学からソクラテスを経て人間を扱う哲学へという展開は、高校倫理の教科書にも書いてある、いわば教科書的な常識だ。本書が85年前に行われた一般向けの講演だということを考えると、実は現在の教科書的常識がこの講演によってできあがった可能性もあるように思う。
一方、現在の学問水準は、この教科書的常識を書き換えつつある。たとえば納富信留『ソフィストとは誰か?』(2006年)は、ソクラテス以前の哲学が自然哲学であったという見解を否定した上に、プラトンの位置づけを変更するよう迫っている。学術的な観点から言えば、本書の見解が古くなっていることは間違いない。

が、本書の魅力は、学問的な成果が書き換えられることによって減じるものではないとも思う。本書は独自の近代的人間観(自由と自律)を前面に打ち出すことによって、一つの作品として成立している。人間理性に対する著者の信頼を愉しむ本なのかもしれない。

F.M.コーンフォード/山田道夫訳『ソクラテス以前以後』岩波文庫、1995年<1932年

→参考:研究ノート「ソクラテスの教育―魂の世話―」