教育概論Ⅰ(栄養)-11

▼短大栄養科 6/26(火)

前回のおさらい

・義務教育の思想。コンドルセとオーエン。
・教育権の構造。教職の専門性。

産業革命と「学校」

・いま我々は「学校」というものの存在を当り前に思っていますが、日本史や人類史の全体を視野に入れると、「学校」というものが例外的な存在であることがわかります。我々の祖先の大多数は「学校」に通っていませんでしたし、それでも世の中は回っていました。
・「すべての子供たちが学校に通うのが当り前」という感覚を、いちど立ち止まって疑ってみましょう。ここから「学校」や「教育」が持つ意味が浮かび上がってくるかもしれません。
・はたして「教育」には意味があるでしょうか? 子供たちはなぜ「勉強」しなければいけないのでしょうか? 「学校」にはどんな存在意義があるのでしょうか?

・まず「学校」が資本主義の世界でどう機能しているかを見えやすくするために、思考実験をしてみましょう。

【思考実験】ジャイアン・スネ夫・のび太のうち、「学校」の成績が人生を左右するのは誰でしょうか?

▼答え:のび太

▼理由:(1)ジャイアンの家は「自営業」で、ジャイアンは跡継ぎです。学校のテストの点が良かろうと悪かろうと、ジャイアンの将来の職業は変わりません。
(自営業は、誰かから給料がもらえるわけではないので、自分自身の活動によって商品価値のある物や情報やサービスを生み出さなければなりません。しかしその活動をうまく行うための具体的・実践的・高度に専門的なスキルを「学校」で教えてもらえることはあまり期待できません。)

(2)スネ夫の家は「資本家」で、自分自身が労働する必要はありません。スネ夫は出来杉くんのような才能ある人材に投資するだけで儲かるので、自分自身が高学歴である必要はあまりないわけです。スネ夫にとって「学校」とは、自分が投資するに値する有能な人間を生産してくれる場所です。スネ夫が出来杉くんにはラジコンを貸すのに、のび太には貸さない理由を考えてみてください。

(3)のび太の家は「労働者」で、自分自身が労働する必要があります。生涯賃金を上げようと思ったら、良い企業に雇用される必要があります。そのためには良い大学を出なければならないし、そのためには良い高校を出なければなりません。学校のテストの点は、のび太の人生をダイレクトに左右します。
(ちなみに、自営業は自分の活動で生み出した物や情報やサービスを売ってお金を稼いでいますが、労働者が売っているものは労働力でしたね。)

(4)オマケ:しずかちゃんの生き方には「専業主婦」という選択肢が色濃く反映されています。彼女はどうしていつもお風呂に入っているのでしょうか? 「ジェンダー論」等で学んだ知見を活用して考えると、いろいろ見えてきます。

立場によって「学校」の見え方が異なります

・資本主義世界の立場によって、「学校」への期待のかけかたの重点が異なります。
・「労働者」のキャリアは、少なくとも就職先は学校でのテストの結果が大きく左右します。
・しかし「実家の商店の跡継ぎ」になるジャイアンにとって、「学校」の勉強にはどういう意味があるでしょうか?
・我々の現実の目から見える教育の姿は、これまで勉強してきた「人格の完成」を目指す教育や、すべての子どもたちの学習権を保障する「義務教育」の考え方とは、大きくズレているようです。どうしてこうなっているのでしょうか?

産業革命と階層分化

・「産業革命」とは何でしょうか?
自給自足の世界から、分業の世界へ。
・土地利用法の変化。生活(衣食住)のためにあらゆるニーズを土地から生産していた自給自足→換金するために商品価値のある単一作物を生産する分業体制。
・余談:いま、生活(衣食住)に必要なモノやサービスの大半が市場化されています。市場化されないものなどあるのでしょうか? とすると、「家事」とはなんでしょうか?
・年貢(モノ中心経済)から賃金労働(お金中心経済)への変化。
・農村から人口が流出し、労働力しか売るもののない人々(→労働者)が大量に発生します。イギリスではエンクロージャー(囲い込み)という現象として記録されています。
・労働力を購入してくれるのは、工場です。産業革命によって、大量の労働力を必要とする産業が急成長します。
・ヒトとカネとモノの大量移動と流動化が促進されます=原始蓄積。
・「二つの国民(資本家と労働者)」の分裂=急速な都市の形成(たとえばマンチェスターやリバプール)、都市スラム問題、浮浪者問題、腐敗選挙区問題などなど。
・階層分化=産業革命が進行すると、独立自営農民(ジャイアン)がいなくなり、少数の資本家(スネ夫)と大多数の労働者(のび太)に分解していきます。

モニトリアル・システム

ベル・ランカスター法:助教法と翻訳されます。大勢の生徒に対する一斉授業方法です。教師はまず成績優秀な学生に教え、優秀な学生(モニター・助教)が一般学生に教えます。
・安価に、大量に、早く、労働者を作ることができます。「人格の完成」を目指すというよりも、工場労働で必要となる必要最低限のリテラシーとモラルを身につけることを目指す教育です。
・ベル・ランカスター方式の学校で子供たちが身につける能力とは、実際はどういうものでしょうか?→隠れたカリキュラム

分業と個性、学歴主義

・分業によって生産性が格段に上がります。アダム・スミス参照。
・分業が促進されるほど、個性が意味を持ちます。社会に人材を送り出すとき、それぞれの特性に応じた持ち場に就けることができれば、社会全体の効率が上がります。いわゆる適材適所。
・この場合の「個性」とは何でしょうか? 「人格の完成」に関わる「個性」と同じものでしょうか?
・人間を序列化するモノサシが固定していきます。横の個性と、縦の序列。
メリトクラシー:能力主義と翻訳されます。もともとは身分や血筋の高い者が社会を統治する体制を否定して、出自に関係なく個人の持っている能力によって地位が決まり、能力の高い個人が社会を統治する体制を指しました。一転して、能力によって人間を序列化する世の中を意味するようになります。
学歴主義:学校の勉強に高い適応能力を示した個人が、きっと社会一般でも高い能力を発揮するだろうと期待する態度です。しかし、学校の勉強に高い適応能力を示す個人が、一般社会で高い適応能力を示すとは限らないということは、広く気がつかれています。それにも関わらず、どうして学歴主義が説得力を持つのでしょうか?→文化的再生産論

復習

・立場によって「学校」の機能の見え方が異なる理屈を押さえておこう。
・産業革命に伴って生じた社会の変化を押さえておこう。

予習

・「隠れたカリキュラム」という言葉について、調べよう。