教育概論Ⅰ(中高)-8

栄養・環教 6/15
語学・心カ・教福・服美・表現 6/16

前回のおさらい

・憲法の意義と教育基本法の性格。
・人格とは、代わりがない(個性)、変わらない(アイデンティティ)ような何かです。

人格の完成(つづき)

自由とルール

・教育基本法第一条に続けて書かれている「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」とは何でしょうか?
・モノは自由ではないが、人格は自由です。
・教育とは、自由でないようなものを、自由にするための営みであると言えそうです。→カント「人間は教育によって初めて人間となることができる。」
・子供は不自由で、大人が自由? →子供は生理現象に無条件に従わざるを得ませんが、大人は同じ生理現象に対しても様々な選択肢を持っています。
・モノは物理法則に従わざるを得ませんが、人格を持つ者は自分でルールを作ってそれに従うことができます。
立法能力:自分でルールを作って、自分で守ることができるような力のことです。他人の作ったルールに従う(他律)のではなく、自らの意志でルールに従う(自律)ことができる力のことです。

【小学校学習指導要領解説 総則編】
自立心自律性は、児童がよりよい生き方を目指し、人格を形成していく上で核となるものであり、自己の生き方や人間関係を広げ、社会に参画をしていく上でも基盤となる重要な要素である。」(138頁)
【中学校学習指導要領】
「[自主、自律、自由と責任]
自律の精神を重んじ、自主的に考え、判断し、誠実に実行してその結果に責任をもつこと。」(特別の教科道徳、154頁)
【中学校学習指導要領解説 総則編】
自立心自律性を高め、規律ある生活をすること
中学生の時期は、自我に目覚め、自ら考え主体的に判断し行動することができるようになり、人間としての生き方についての関心が高まってくる。(中略)。また、教師や保護者など大人への依存から脱却して、自分なりの考えをもって精神的に自立していく時期でもある。しかし、周囲の思わくを気にして、他人の言動から影響を受けることも少なくない。そうした中で、現実の世界から逃避したり、今の自分さえよければよいと考えたりするのではなく、これまでの自分の言動を振り返るとともに、自分の将来を考え、他者や集団・社会との関わりの中で自制し生きていくことができる自己を確立し、道徳的に成長を遂げることが望まれる。そうした観点から、道徳科の授業で生徒が自己を振り返り、自己を深く見つめ、人間としての生き方について考えを深め、生徒の自立心自律性を高め、規律ある生活が送れるようにする取組が求められる。」(142頁)

理性

*理性:人間だけが持っている(つまり他の動植物は持っていない)であろう、ルール(法則)を発見する力です。モノについてのルールを発見する力(純粋理性)と、人格についてのルールを発見する力(実践理性)は、別のものかもしれません。
*科学:ルール(法則)を発見する手続きのことです。個物の観察から普遍的ルールの洞察に至ります。

観察:個別具体物の特徴を知覚します。
比較:具体物それぞれの似ているところや異なっているところを把握します。
感覚:客観的な対象を主観的な印象として取り込むための窓口です。

分析:ひとつのものをいくつかの部分に分けて、本質的な要素を析出します。
総合:析出された要素をまとめて本質的な概念を構成します。
判断:分析や総合によって概念の本質をはっきりと見分けます。

演繹:抽象的な理論から個別具体的なものや現象を説明します。
帰納:個別具体的なものから抽象的な理論を発見します。
推論:具体的なものを改めて観察するまでもなく、頭の中だけで論理的に考えて結論を導き出す力です。

自己実現

・どのように人格は完成へと向かうのでしょうか。
・自己実現≒ほんとうのわたしデビュー、わたしらしいわたし。社会的な成功とは基本的にはあまり関係がありません。
・直線的な発達ではなく、矛盾と葛藤が連続する、ジグザグの成長です。
・弁証法的発展:自己耽溺(自己中心主義)と自己疎外(世間中心主義)の葛藤から、自由で主体的な決断を経て、責任を引き受けて、自己実現へ向かいます。
・「自分こわし」と「自分つくり」の連続が、人格を完成へと向かわせます。

【中学校学習指導要領】
「生徒が、自己の存在感を実感しながら、よりよい人間関係を形成し、有意義で充実した学校生活を送る中で、現在及び将来における自己実現を図っていくことができるよう、生徒理解を深め、学習指導と関連付けながら、生徒指導の充実を図ること。」(総則、25頁)
「自主的、実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かして、集団や社会における生活及び人間関係をよりよく形成するとともに、人間としての生き方についての考えを深め、自己実現を図ろうとする態度を養う。」(特別活動の目標、162頁)
「近代教育」まとめ:人格の完成とは・・

・個性の尊重:かけがえのないわたし。
・アイデンティティの確立:自(分が)主(語)。わたしはわたし。
・自由の獲得:自律。わたしがわたしをコントロールする。
・自己実現:夢。ほんとうのわたし。

近代初期の教育思想

・特定の職業や身分のための人間形成を超えるような、普遍的な人間を作ることを目指す教育思想は、近代から始まります。

コメニウス Johannes Amos Comenius

・宗教改革、プロテスタント。
・1592年~1670年。モラヴィア出身。
・主著『大教授学』、『世界図絵』(世界初の絵本)
・キャッチフレーズ:近代教授学の父
・名言:全ての人に全ての事柄を教授する

ロック John Locke

・市民革命、経験主義。
・1632年~1704年。イングランド出身。
・主著『市民政府論』(政治思想)、『人間悟性論』(認識論)、『教育論』あるいは『教育に関する一考察』(教育思想:翻訳が異なるだけです)
・キャッチフレーズ:紳士教育タブラ・ラサ(白紙説)
・名言:健全なる精神は健全なる身体に宿る。←まず体育(食物、睡眠、居住環境など)の重要性を強調しました。
・身分制を反映した古い教育を否定して、新しい市民社会を担う紳士(ジェントルマン)を作ることを目指す教育です。子供期の独自性を認めるというより、理性ある大人になることを重視する教育です。詰め込み教育を否定し、大人になってから役に立つ習慣形成を重く見ました。

復習

・「自由と責任」の論理や、「自己実現」の意味を確認しておこう。
・時代背景を考慮しながら、各教育思想の本質を押さえよう。

予習

・ルソー、ペスタロッチー、ヘルバルト、フレーベルの仕事について確認しておこう。

発展的な学習の参考

ジョン・ロック『教育に関する考察』:新しい時代にふさわしい紳士教育の形が示されています。