教育概論Ⅰ(保育)-9

短大保育科 6/14、6/16

前回のおさらい

・個性=代わりがない。
・アイデンティティ=変わらない。
・自由=自分でルールを作って自分で従う。

自己実現

・どのように人格は完成へと向かうのでしょうか。
・自己実現≒ほんとうのわたしデビュー、わたしらしいわたし。社会的な成功とは基本的にはあまり関係がありません。
・直線的な発達ではなく、矛盾と葛藤が連続する、ジグザグの成長です。
・弁証法的発展:自己耽溺(自己中心主義)と自己疎外(世間中心主義)の葛藤から、自由で主体的な決断を経て、責任を引き受けて、自己実現へ向かいます。
・「自分こわし」と「自分つくり」の連続が、人格を完成へと向かわせます。

「児童が、自己の存在感を実感しながら、よりよい人間関係を形成し、有意義で充実した学校生活を送る中で、現在及び将来における自己実現を図っていくことができるよう、児童理解を深め、学習指導と関連付けながら、生徒指導の充実を図ること。」
『小学校学習指導要領』総則、p.9
「(3)自主的、実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かして、集団や社会における生活及び人間関係をよりよく形成するとともに、自己の生き方についての考えを深め、自己実現を図ろうとする態度を養う。」『小学校学習指導要領』特別活動の目標、p.164

「近代教育」まとめ:人格の完成とは・・

・個性の尊重:独立。かけがえのないわたし。
・アイデンティティの確立:自主。まさにこのわたし。
・自由の獲得:自律。わたしが作ったルールに従うわたし。
・自己実現:夢。ほんとうのわたし。

近代初期の教育思想

・特定の職業や身分のための人間形成を超えるような、普遍的な人間を作ることを目指す教育思想は、近代から始まります。

コメニウス Johannes Amos Comenius

・宗教改革、プロテスタント。
・1592年~1670年。モラヴィア出身。
・主著『大教授学』、『世界図絵』(世界初の絵本)
・教育学的愛称:近代教授学の父
・キャッチフレーズ:全ての人に全ての事柄を教授する

ロック John Locke

・市民革命、経験主義。
・1632年~1704年。イングランド出身。
・主著『市民政府論』(政治思想)、『人間悟性論』(認識論)、『教育論』あるいは『教育に関する一考察』(教育思想:翻訳が異なるだけです)
・キャッチフレーズ:紳士教育タブラ・ラサ(白紙説)
・名言:健全なる精神は健全なる身体に宿る。←まず体育(食物、睡眠、居住環境など)の重要性を強調しました。
・新しい市民社会を担う紳士(ジェントルマン)を作ることを目指す教育です。子供期の独自性を認めるというより、理性ある大人になることを重視する教育です。詰め込み教育を否定し、大人になってから役に立つ習慣形成を重く見ました。

ルソー Jean-Jacques Rousseau

・市民革命、ロマン主義。
・1712年~1778年。ジュネーヴ出身。
・主著『社会契約論』(政治思想)、『人間不平等起源論』(政治思想)、『新エロイーズ』(恋愛小説)、『エミール』(教育思想)
・キャッチフレーズ:子どもの発見消極教育
・名言:万物を創る者の手を離れるときはすべてよいものであるが、人間の手に移るとすべてが悪くなる
・子供期の独自性を初めて主張しました。消極教育とは、書物による早期教育をいましめ、まず自然による教育(たとえば感覚の訓練など)を重視する姿勢を指します。また、思春期や青年期の持つ独特の意義について意識を向けたのも大きな特徴です。

近代初期教育思想の特徴

・完成した大人の理想像から教育を組み立てる考え(ロック的なもの)と、純粋な子供の理想像から教育を組み立てる考え(ルソー的なもの)の両側面が確認できます。子供の誕生=大人の誕生。
・いずれにせよ、あらゆる人間が共通して持つ「理性」に対して全面的な信頼が置かれています。新しい社会に必要な人間とは、既存の権威に無批判に従うような人間ではなく、自分で考えて行動することができる理性的な人間であることが示されています。
・学校教育を非難し、個人を育てるために家庭教育の意義を強調します。自由権としての教育(国家からの自由)。集団(学校教育の固有性)の軽視。

復習

・時代背景を考慮しながら、各教育思想の本質を押さえよう。

予習

・ペスタロッチー、ヘルバルト、フレーベルの仕事について確認しておこう。

発展的な学習の参考

ジョン・ロック『教育論』:新しい時代にふさわしい紳士教育の形が示されています。

ジャン・ジャック・ルソー『エミール』:普遍的な「人間」をつくるという、まったく新しい教育の姿が描かれています。