教育概論Ⅰ(保育)-8

短大保育科 6/7、6/9

前回のおさらい

・民主主義にとって憲法の役割は決定的に重要です。
・憲法とセットのものとして作られた教育基本法は、教育の目的を「人格の完成」としています。
・「人格」とは、代わりがなく、変わらないような何かです。

人格の完成(つづき)

個性

・個性=Individualityの翻訳語です。日本では明治25年(1892年)頃からヘルバルト主義の流行に伴って普及しました。
・「個」性と見るか、個「性」と見るかで、意味が異なってきます。もともとは「個」性で、長所とか特徴とか持ち味などという言葉とは意味が違います。
・他のものと交換することができない、かけがえのない、それが取り去られたら、私が私でなくなってしまう何かをさして使う言葉です。
・「個性を尊重する」とはどういうことでしょうか?
・教育者が言ってはならない、個性を否定するような言葉があります。
・たとえば「名前」は重要なものです。

【児童の権利条約第7条-1】
「児童は、出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。」
*児童の権利条約:1989年に国連総会で採択し、日本は1994年に批准しました。

アイデンティティ

・日本語では「自我同一性」や「存在証明」などと訳されることがあります。「あの私」と「この私」が一致していることを証明したいときなどに用いられます。「IDカード」=Identity card。
・自同律(principle of Identity):「A=A」という式をアイデンティティの法則と呼びます。「わたし は わたし」とはどういうことでしょうか?
・この世に変化しないものなどあるでしょうか? 「A→A’」
・私は常に変化し続けている(新陳代謝)にも関わらず、どうして常に「わたしはわたし」と言うことができるのでしょうか?
・わたしの属性について考えてみましょう。A=X、A=Y、A=Z・・・・。常に一致しているのは何でしょうか?
・主語と述語とは何でしょうか。常に主語であるものにはアイデンティティが成立しています。
・「主体性」とは具体的に何を表しているのでしょうか? 述語に重点を置くか、主語に重点を置くかで、話は大きく変わってきます。

自由と責任

・教育基本法第一条に続けて書かれている「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」とは何でしょうか?
・モノは自由ではないが、人格は自由です。
・教育とは、自由でないようなものを、自由にするための営みであると言えそうです。
・子供は不自由で、大人が自由? →子供は生理現象に無条件に従わざるを得ませんが、大人は同じ生理現象に対しても様々な選択肢を持っています。
・人間は、本当に自由なのでしょうか?

思考実験:自由と責任

case1:殺人 選択肢がある場合
case2:リモコン 選択肢がない場合
case3:運命 選択肢はあったのか?→(余談)悲劇とは何か
case4:隕石 物理法則には選択肢の余地がない
case5:因果関係 因果関係に選択肢はあるか→(余談)決定論
case6:責任 選択肢は、あったはずだ

・「責任をとる」ということは「自由」でなければ起こりえません。自由だから責任があるのではなく、責任をとれるから自由が確認できると言えそうです。
・「自由」であるということは、因果律に支配された「モノ」とは違うということです。
・因果律に支配されないものとは何でしょうか? →人格
*立法能力:自分でルールを作って、自分で守ることができるような力のことです。他人の作ったルールに従う(他律)のではなく、自らの意志でルールに従う(自律)ことができる力のことです。

【『幼稚園教育要領』2018年版】
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」「(2)自立心 身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で、しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫したりしながら、諦めずにやり遂げることで達成感を味わい、自信をもって行動するようになる。 」(4頁)
【『幼稚園教育要領解説』2018年版】
「幼児期には、幼児は家庭において親しい人間関係を軸にして営まれていた生活からより広い世界に目を向け始め、生活の場、他者との関係、興味や関心などが急激に広がり、依存から自立に向かう。」(9頁)
「自立心は、領域「人間関係」などで示されているように、幼稚園生活において、教師との信頼関係を基盤に自己を発揮し、身近な環境に主体的に関わり自分の力で様々な活動に取り組む中で育まれる。」(51頁)

復習

・「個性を尊重する」というとき、保育士は具体的に何をするべきか、考えてみよう。

予習

・「自己実現」という言葉について調べておこう。