教育概論Ⅰ(保育)-7

短大保育科 5/31、6/2

前回のおさらいと補足

・ヨーロッパが強くなった理由は、欲望を解放した個人主義に加えて、民主主義の仕組みを発明したからです。
・民主主義の世の中を実際に作ったのは市民革命で、その理論的根拠として社会契約論が考えられました。ホッブズ→ロック→ルソーと発展します。
・新しい社会(個人を契約によって結ぶ)を作るためには、新しい人間(身分や属性に縛られない、自由で平等で理性的な個人)を作る教育が必要となります。
・新しい人間を作る教育とは、属性に関係なく「人格の完成」を目指す教育です。
シティズンシップ教育:シティズン=市民。民主主義の世の中に主体的に参画することができるような力と意欲を持った人間を育てようという教育です。参考=日本保育学会「関東地区研究集会」の個人的まとめ

憲法と教育の自由

・自発的に広がったリテラシーの教育(日本の江戸時代や印刷術発明後のヨーロッパ)と、普遍的な人間を作るための教育(市民革命後のヨーロッパ)の違いを考えてみましょう。教育を受ける人や、教育の内容や、教育への国家の関与などが、どのように異なるでしょうか? →決定的な違いは、教育が「人間の権利」であると考えられるようになったことです。
・「人間の権利」としての教育とは、性別や才能や財産や地位などの特殊性に関係なく、あらゆる人間に共通する資質を育てることを目指す普遍的な教育です。知識を注入したり偏差値を上げるような教育でもなければ、または特定の職業を目指すような教育でもありません。 →Instruction=専門教育(特殊性)とEducation=普通教育(普遍性)の違いを考えてみましょう。
・「人間の権利」を保障するために、憲法というものが存在しています。

思考実験:法律を破ったことはありますか?

・市民は、リーダーが作った法律は従う義務があります。法律を破ったときには、ペナルティが課されます。
・法律は、それぞれの市民が平和かつ幸福に暮らすことができるよう、選ばれたリーダーによって定められます。
・市民は、法律を破ることはできますが、憲法を破ることはできません。法律と憲法は、どこがどう違っているのでしょうか?
・そもそも憲法を守る義務があるのは誰でしょうか?→日本国憲法第99条。
・憲法は市民に何を期待しているのでしょうか?→日本国憲法第97条と第98条。

思考実験:憲法がないとどうなるでしょうか?

・もしも多数決だけで世の中がきまるどうなるでしょうか?→「多数の専制」の怖さ。
・誰がリーダーになったとしても「これだけは絶対にやってはいけない」という、リーダーの暴走を防ぐ禁じ手をあらかじめ定めておく必要があります。
・憲法の原理=一般意志 人間性に関する普遍的な原則から導き出すことができるような合理的かつ普遍的なルールに基づいて、法律が作られる必要があります。
・たとえば、どんな人にとっても命は大切であったり、理由なく財産を奪われることは嫌だったり、奴隷にされることは嫌だったりしますし、全ての人は自分が幸福であることを望むはずです。それには男か女か、金持ちか貧乏か、才能があるかないかなどという特殊性にはいっさい関係がない、あらゆる人間に共通すること(普遍)です。

基本的人権

基本的人権:誰がリーダーになったとしても、絶対に人々から奪うことができない生まれながらの人間の権利です。性別や才能などの特殊性に関係なく、あらゆる人が平等に持っている普遍的なものです。
自由権:国家が侵害することができない、個人が持つ権利です。「国家からの自由」のことです。具体的には、身体の自由、財産の自由、居住の自由、職業選択の自由、教育の自由などなどがあります。
教育の自由:自分の子供をどのように教育するかは、国家から関与されることではありません。←信仰の自由:どのような思想信条を持つかについて、国家が個人に命令することはできません。
・Education(教育)とInstruction(教授)の違いを思い出しましょう。国家はEducationには直接関与することができなくとも、Instructionに関与することは必ずしも制限されていないかもしれません。

教育基本法と日本国憲法

・教育基本法は、1947年に日本国憲法と一体のものとして制定され、準憲法的性格を持つと考えられています。→つまり、教育基本法を守らなければいけないのはリーダーの側であって、一般国民は守らせる側ということになります。

人格の完成

・教育基本法第一条に、教育の目的は「人格の完成」であると書いてありました。
人格とは何でしょうか? 目に見えないし、触ることができないし、科学的に存在を確かめることができません。
・「好き」と「愛してる」という言葉の意味の違いをヒントに考えてみましょう。

 好き愛してる
個性代わりがある代わりがない
タイプ言える言えない
数値化表せる表せない
アイデンティティ変わる変わらない
様相主観的な感情存在のあり方
対象モノ(純粋理性)人格(実践理性)

・人格とは、比較できず、束ねられず、代わりがなく、変わらないようなものです。
・モノと人格は決定的に違うものです。
・「人格を尊重する」とは、どういうことでしょうか。

復習

・憲法の性格と、教育基本法との関係について押さえておこう。

予習

・「個性」や「アイデンティティ」という言葉について調べておこう。

発展的な学習の参考

稲垣良典『人格《ペルソナ》の哲学』
「人格」という概念をどのように理解するべきかをキリスト教神学の立場から根本的に考察した本で、歴史的考察としても哲学的思索の参考としてもたいへん読み応えがある。

大澤真幸『恋愛の不可能性について』
好きであることの理由を具体的にいくつ積み重ねていっても、その人だけを好きであることは絶対に証明できないということが、分析哲学の立場から明らかにされている。

プラトン『パイドロス』
プラトン哲学のなかで、恋愛について最も深く語っている著作。恋愛というものが人間の言葉で合理的に説明できるものではなく、存在の深淵に関わることが明らかにされている。