流通経済大学「教育学Ⅰ」(5)

■新松戸キャンパス 5/18(金)
■龍ケ崎キャンパス 5/14(月)

前回のおさらい

・自由の落とし穴。自由が拡大すると、格差が拡大する。強いものはますます強くなり、弱いものはますます弱くなる。
・労働力売買の仕組み。労働力は売るよりも買う方が得をするが、労働力を買うことができるのは「生産手段」を持っている者だけ。失業者が存在する限り、必ず労働力の値段は下がり続ける。

社会権と義務教育

・自由を拡大すると格差が拡大するだけだということを理解すれば、格差の拡大を防ぐためには自由を制限すればいいことに気がつく。

社会権

社会権:形式的に自由が与えられるだけでなく、全ての人が実質的に自由を使いこなすことができるように、強者に対してハンデを設け、弱者に対して様々なアドバンテージが与えられる。具体的には、生存権、労働基本権、教育を受ける権利。
・たとえば、最低賃金や労働時間の設定、労働組合の結成等により、労働力の価格が低下することを抑えられる。
・誰が責任を持つのか?←「国家」の積極的な関与。

義務教育

教育を受ける権利:すべての子どもには「教育を受ける権利」がある。
・もともと教育とは贅沢なものであって、経済的時間的にゆとりがある者しか享受できないものだった。たとえば「学校=school」という言葉はもともと「暇」という意味だった。労働している者=奴隷には教育を受けることなど不可能だった。
・教育を受けた者はますます強くなり、教育を受けられなかった者はますます弱くなる。自由によって格差が拡大していく。
←どんな弱い者であっても教育が受けられるようにしなければならない。全ての人間に「教育を受ける権利」が保障されなければならない。
義務教育:保護者(およびそれを援助する国家や自治体)が子供に教育を受けさせる義務。子供の義務ではないことに注意。子供が持っているのはあくまでも「権利」であって、義務を課せられているわけではない。

教育内容=教材と文化財

・しかし、多くの子供たちには「権利としての教育」に対する実感がない。教育はむりやり受けさせられているものだと思っている。「権利としての教育」への実感をまったく欠いている問題。
←子供たちが勘違いしているというよりも、実際に与えられている教育が、とてもじゃないが「権利としての教育」とは思えないものだから。
教育内容:子供たちが教育で身につけるべき知識や技術の本質。学ぶ対象。
教材:子供たちが教育内容を身につけるべく、実際に学校で教えられる材料。学ぶ手段。
教科書:学ぶ人にも教える人にも使いやすいように、手際よく効果的に教材を並べたもの。学ぶ手段の手段。
・教科書に取りあげられているのは、ひとつの例にすぎない。「例」を身につけても何の意味もない。重要なのは、教科書に載っているような例を通じて「物事の本質」を理解すること。
←最悪なのは、「教科書を教える」こと。手段の手段を教えるのでは、何をしたいのかわからない。本来は「教科書教える」のではなく「教科書教える」でなければならない。

文化財の選択基準

文化財:人類が作り上げた様々な文物のうちで、特に後の世代に引き継いで伝えていくべきだと考えられる価値のあるもの。学校で子供たちに教えられるべき教育内容と重なるところが多い。
メインカルチャー:主要文化。上位文化。後の世代に末永く伝えられるべき重要な文化。美術館や博物館に展示されたり、教材として取りあげられたりする。
サブカルチャー:副次文化。下位文化。後の世代に伝えられなくてもまったく困らないであろう文化。美術館や博物館に展示されることなく、教材として取りあげられることもない。

・子供が意義を感じるのはことごとくサブカルチャーであって、メインカルチャーの方には関心を示さない。
・が、学校で教えられるのはメインカルチャー。
←子供は放っておいても勝手にサブカルチャーを学び取るが、メインカルチャーは強制しなければ学び取らない。

・支配層(資本家)にとって価値があるのはメインカルチャーであって、自営業や労働者にとって価値があるのはサブカルチャー。
・支配層が支配を続けていくためには、メインカルチャーがいつまでも価値がある方が都合が良い。学校で教えられるのは、常にメインカルチャー。メインカルチャーに親和性が高い人々(支配層)は、学校で教えられる文化財に馴染んでおり、簡単に習得することができる。しかしメインカルチャーに親和性が低い人々(労働者)は、学校で教えられる文化財に馴染みがなく、修得するためのハードルが高い。

階級的観点による教育の3類型

(1)支配層による支配層のための教育=メインカルチャーの伝達。公式のカリキュラム。
(2)支配層に都合が良い労働者の教育=従順で優秀な労働者の形成。隠れたカリキュラム。
(3)労働者による労働者のための教育=?

復習

・社会権と義務教育の論理について押さえておこう。
・文化財の選択基準について理解を深めておこう。

予習

・「働く」ことと「生きる」ことの関係について考えておこう。