【要約と感想】木村元『学校の戦後史』

【要約】近代の学校制度は、必然的に矛盾や制約を抱え込みます。というのは、近代学校は、いったん生活の場から子どもを引き剥がして、学校という特別な場所に子どもを隔離し、そしてもう一度生活の場に戻すという特殊な人づくりを担っているからです。特殊日本的な学校は、高度成長期まで矛盾を抱えながらも産業化という時代の要請に対応してきましたが、産業化が一段落した1980年代からは矛盾が表立って目につくようになります。「平等」から「選択」へと価値観が急速に変化しつつある現代では、学校の存在意義や教職の専門性に対して多方面から疑問が持たれています。新たな課題への対応のために学校の土台を再構築することが求められています。

【感想】「近代」という時代の賞味期限が切れつつあり、それに伴って学校の存在意義が低下していくという歴史観は、研究者の間では広く共有されていると思われる。いわゆる「学力低下」に対しても、賛成にせよ反対にせよ、その文脈で把握する論者が多い。本書のユニークさは、近代終焉の視点に加えて「日本の学校」の特殊性を重視した記述にある。一般的な近代とは異なり、日本には特殊日本的な近代の在り方がある。特殊日本的な学校の在り方は集団を重んじる学級経営という形で戦前から形成され、また特殊日本的な教師は単に知識を伝授する職人ではなく人格形成に携わる立派な人間性を具えた人物として理解されてきた。しかし高度経済成長までは機能した近代学校および特殊日本的学校は、ポスト産業化社会を迎えるに当たって機能不全を起こしたと見なされ、構造改革の対象となる。
本書は「近代における学校の機能」という論理的視点に目を配りつつ、さらに「特殊日本的近代における学校の機能」という具体的視点を加えることにより、現代学校の立ち位置と抱え込んだ課題を浮き彫りにしてくれる。これからの学校や教育をどうするのかを考えるための、確かな議論の土台となる知識や視点を、コンパクトに与えてくれる。逆に言えば、本書に書かれている内容を踏まえない学校論や教育論は、地に足のつかない空理空論に終わる可能性が高い。学校や教育を語る際の必須教養として広く読まれて欲しい本。

木村元『学校の戦後史』岩波新書、2015年