教育課程の意義と編成-13

前回のおさらい

・冷戦。教育の現代化。→生活につながる教育からロケットを飛ばす教育へ。
・高度経済成長。進学率の上昇と受験競争の激化。→ムラを育てる教育から村を捨てる教育へ。

学習指導要領の変遷(2)

・1977年と1989年の学習指導要領改訂。
・いわゆる「ゆとり教育」の開始。「個性」の尊重。
*「ゆとり教育」という言葉が意味するものについて、注意しよう。見かけの教育現象ではなく、日本社会で本質的に進行していた自体に目を向けよう。
・1984年の「臨時教育審議会」。

オイルショックと産業構造の転換

・1973年のオイルショック。高度経済成長の終わり。低成長へ。ただし日本だけ早期に復活。Japan as No.1(1979年)からハイテク景気とバブル景気へ。
・重厚長大型産業(石油を莫大に使用する産業、少品種大量生産)から軽薄短小型産業(ロボットとコンピュータ、多品種少量生産)への転換。
・生産主導から消費主導へ=マーケティングと宣伝広告の重要性。
・人材雇用の転換=アウトソーシング。終身雇用から流動的な雇用へ。
・知識観の転換=知識や技術の賞味期限の短縮。暗記型(知識の量)から検索活用型(思考力・判断力・表現力)へ。
・教育観の転換=「まじめ」から「個性」へ。
→1977年の学習指導要領改訂:「ゆとりある充実した学校生活の実現=学習負担の適正化」
→1989年の学習指導要領改訂:新学力観。個性。
・どうしたら「個性」を育てることができるのか?

臨時教育審議会

*中曽根康弘:臨時教育審議会。1984年に総理府に設置。教育改革ブーム。
・中央教育審議会(文部省)と臨時教育審議会(総理府)。内閣が直々に「教育改革」の前面に出てくるとはどういう事態なのか。
・民営化、自由化、規制緩和、構造改革、小さな政府。
・電電公社→NTT(1985年)、専売公社→JT(1985年)、国鉄→JR(1987年)。
・自由化、民営化のメリット=公共部門の縮小による歳出削減。市場原理(競争原理)により、個性が伸張し、サービス全体の質が向上する。
・自由化、民営化のデメリット=後述。
・学校における競争原理=学校選択制。個性の伸張と全体のレベルアップ。「学区制」との違い。
・たとえば、いじめはどうしたらなくなるか? 大学の授業がつまらないとしたら?
→バウチャー制度。私立学校も含めた競争原理。
→学校民営化。すべてを競争原理に委ねる。

聖域なき構造改革

*高校多様化:1990年代~。中高一貫校。総合学科。単位制高等学校。
*小泉純一郎:構造改革特区(2002年)。

・学習指導要領によらない多様なカリキュラム編成(構造改革特区研究開発学校制度)。
・株式会社による学校設置の容認。
・不登校児童生徒等の教育を行うNPO法人で一定の実績等を有するものの学校設置の容認。
・大学設置基準の緩和(校地面積,運動場設置,空地確保の弾力化)。
・教員の特別免許状の授与権者として特区市町村教育委員会も追加。
・インターネットを利用した教育を行う大学・大学院についての各種施設基準の弾力化。
・「公私協力学校」の設置。
・学校施設の管理及び整備に関する権限を教育委員会から地方公共団体の長への移譲。

→小学校1年生から英語の授業を実施。
→小中一貫、9年間を4・3・2に区切って教育課程を実施。
→「市民科」や「情報科」を新設。
→小中高12年一貫教育で、授業を全部英語で行う。(構造改革特区第1号)

1998年の学習指導要領改訂

・「生きる力」の育成。教育内容の厳選、「総合的な学習の時間」の新設。
・いわゆる「ゆとり教育」。学校週五日制=1995年から月2回。2002年から完全実施。
学校週5日制のめざすものは…

学校週5日制は、学校、家庭、地域社会の役割を明確にし、それぞれが協力して豊かな社会体験や自然体験などの様々な活動の機会を子どもたちに提供し、自ら学び自ら考える力や豊かな人間性などの「生きる力」をはぐくむことをねらいとしています。
子どもたちの「生きる力」をはぐくむためには、豊かな体験が不可欠です。自然体験などが豊富な子どもほど、道徳観や正義感が身についているという調査結果も出ています。

・授業時間削減=公的部門の割合を減らし、市場に委ねる割合を増やす。

自由化、民営化、規制緩和、構造改革のデメリット

(1)本当に「個性」の育成につながるのか? 単に「序列化」が進行し格差が拡大するだけではないか?
(2)本当に質が向上するのか? 競争に際して不正を行う者が多いとどうなるか。
(3)教育は「サービス」なのか?

学力格差の拡大

・いわゆる「学力低下」の実態。
・授業時間削減:教育の市場化による格差拡大。十分な教育資金で子供を塾にやれる家庭と、アルバイトをしてしまう子供がいる家庭との格差。
・学校選択制:文化資本の差による格差拡大。十分な教育情報を集める文化資本(金・時間・情報・人脈)がある家庭とない家庭の格差。
*春学期に扱った「自由のワナ」。

競争の底抜け

・賞味期限詐欺、耐震偽造詐欺←規制緩和によって未熟なプレイヤーが競争に参加する。
・競争の質。真っ当に努力した者が報われているのか?
・たとえば2011年の大津市いじめ問題。大津市には学校選択制が導入されていたが、いじめは隠蔽された。理屈通りなら学校選択制によっていじめがなくなってもいいのに、現実にそうならなかったのはなぜか?

教育とサービス消費

・他のサービスと異なり、教育サービスは購入時点ではまだ「未完成品」である。
・他のサービスと異なり、教育サービスは購入者自身を対象とする。
・教育は本質的に「サービスの消費」ではなく、生徒との共同的な「価値の生産」の過程である。

復習

・「ゆとり教育」という見かけの教育問題の下で、本当に進行していた自由化・民営化・規制緩和・構造改革について把握しよう。
・メリットとデメリットについて押さえよう。

予習

・半年間の授業をおさらいしておこう。