【要約と感想】藤田英典『教育改革-共生時代の学校づくり-』

【要約】臨時教育審議会(1984年)以後、まやかしの「教育改革」の合言葉の下、実際には教育の自由化・市場化が進行していますが、この改革によって教育が良くなるという客観的な根拠は一切ありません。具体的には、学校選択制と学校週五日制は公教育を崩壊させます。

【感想】20年前に出た本ではあるけれども、現在の教育改革のおおまかな流れを捕まえるにはまだ有益な本だと思う。近年の「生きる力」とか「社会に開かれた教育課程」とか「チーム学校」とかという教育改革の意味は、文部科学省の動向だけを見てもよく分からない。高度経済成長による日本社会の大変動を踏まえ、臨時教育審議会の作った流れを押さえた上で、教育再生実行会議が依拠するイデオロギーを確認しておく必要がある。すると、表面上は教育政策がくるくる変わっているように見えても、根本的な改革の方向性は連続していることが分かる。一貫して市場化・自由化を推進することで、私と公の境界に位置する「公共」の基盤が掘り崩され続けているのである。「公共」の領域は、「私」と「公」の両側から削られ続けている。
本書は、教育は公共の仕事でなければならないという立場に徹底的に立っている。そして本書では、特に「私」からの圧力に対して抵抗しようとしている。その視点から、20世紀末の段階における景色がよくまとめられている。そして残念なことに、悲観的な予言のいくつかは20年後に見事に的中している。

で、教育の仕事を「私」でもなく「公」でもなく「公共」という領域で行おうというとき、「共生」は極めて重要なキーワードとなる。資本主義や民主主義という政治体制を前提としたとき、教育は本来的には私事である。その私事であるはずの教育を「公共」へと組織化しようとするとき、「共生」の理念は中核的な役割を果たすはずだ。そして本書の副題である「共生時代の学校づくり」には、その思いが込められているはずだ。と思うのだが、本書の記述は「公共」の基盤を掘り崩す「私」への危機感表明と追求に終始して、残念ながら「共生」の具体的な形は見えないのだった。(これに関しては、志水宏吉氏の仕事が補完してくれる。)

藤田英典『教育改革-共生時代の学校づくり-』岩波新書、1997年