永世七冠

羽生棋聖が渡辺竜王に勝利し、永世七冠の資格を得ました。感無量です。応援しながらも、「もう無理かもしれない」と頭のどこかで思っていました。去年あたりから竜王挑戦者にすらなれないかもと悲観してたり。しかし真のヒーローは、やっぱり違う。凡人が「無理かも」と思っていることを実現してしまうのが本物のヒーローだなあ。

今回の第5戦も、見応えがありました。角換わりは戦型の中では一番好きでよく見るのですが、37手目の4五銀は新鮮すぎました。まあ、近年の角換わりは進化が激しすぎて(2九飛と4八金のコンビネーションとか、序盤からの桂跳ねとか)、何が出てきても驚かない感じはあったとは言え、昔からよく見た形の腰掛銀からの一見無茶な仕掛けが見事に炸裂することにびっくり。今日のために暖めていた戦法だったのかなあ。凄いなあ。

個人的には穴熊みたいにガチガチに防御を固めてから細い攻めをつなぐスタイルは好きではなくて(まあ、単に技術的な凄さが分からないだけという可能性が高いのですが)、また逆に横歩取りのような極端な空中戦もよく分からなくて、角換わりとか、矢倉急戦とか、振り飛車急戦のような、攻防が入り乱れるような戦いが好きです。最近の若手主流の仕掛けが早い将棋は、見ていて興奮します。今日の羽生さんの戦いは、若手にも負けないアグレシッブな仕掛けでした。グッときました。

羽生さんは、勝ちを意識すると差す手がぶるぶる震えるという癖があって、今日も8四香のときは震えていたようですが。しかし相手の渡辺竜王は、羽生さんの手がぶるぶる震えるという勝利宣言を受けながらも、そこから逆転勝ちを引き寄せるような豪腕で(NHK杯のときだったかな)、今日も何かあるかもしれないと思いながら見ていましたが、最後まで圧倒して終わりました。番勝負を通じて、よく意味の分からなかったチグハグな中飛車以外では、羽生さんが全部圧倒していたように思います。

渡辺さんの元気のなさは気になりますね。去年の騒動でケチがついたのが影響しているような気もしますが。実際のところが分からないので僕がコメントするような事ではありませんが、モヤモヤしたところがあって、あまり応援する気にならなかったのも確かではあって。衰え方が急激な気はします。渡邊さんが得意としていた、しっかり玉を囲ってから細かい攻めをつなぐスタイルが時代遅れになってしまった感は強いです。が、まだまだ将棋界を盛り上げるために頑張って欲しいです。

渡辺竜王が投了したのは、ちょうど太陽が西の地平線に沈むタイミングでした。窓の外を見ると、夕焼けを背にした富士山のシルエットが見えたのでした。