道徳教育の研究-5

前回のおさらい

・教育基本法第一条「人格の完成」
・個性、アイデンティティ、自由。

道徳教育の意義

我が国の教育は、教育基本法第1条に示されているとおり「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われ」るものである。
人格の完成及び国民の育成の基盤となるものが道徳性であり、その道徳性を育てることが学校教育における道徳教育の使命である。(『学習指導要領解説 特別の教科道徳編』1頁)

・道徳教育の意義を、教育の目的と関連づけて理解すること。

我が国の学校教育において道徳教育は、道徳の時間を要として学校の教育活動全体を通じて行うものとされてきた。これまで、学校や生徒の実態などに基づき道徳教育の重点目標を設定し充実した指導を重ね、確固たる成果を上げている学校がある一方で、例えば、歴史的経緯に影響され、いまだに道徳教育そのものを忌避しがちな風潮があること、他教科に比べて軽んじられていること、読み物の登場人物の心情理解のみに偏った形式的な指導が行われる例があることなど、多くの課題が指摘されている。(『学習指導要領解説 特別の教科道徳編』1~2頁)

→道徳の教科化(平成27年3月)。

「特定の価値観を押し付けたり、主体性をもたず言われるままに行動するよう指導したりすることは、道徳教育が目指す方向の対極にあるものと言わなければならない」、「多様な価値観の、時に対立がある場合を含めて、誠実にそれらの価値に向き合い、道徳としての問題を考え続ける姿勢こそ道徳教育で養うべき基本的資質である」との答申を踏まえ、発達の段階に応じ、答えが一つではない道徳的な課題を一人一人の生徒が自分自身の問題と捉え、向き合う「考える道徳」、「議論する道徳」へと転換を図るものである。(『学習指導要領解説 特別の教科道徳編』2頁)

考え、議論する道徳

思春期にかかる中学生の発達の段階においては、ふだんの生活においては分かっていると信じて疑わない様々な道徳的価値について、学校や家庭、地域社会における様々な体験、道徳科における教材との出会いやそれに基づく他者との対話などを手掛かりとして自己との関わりを問い直すことによって、そこから本当の理解が始まるのである。また、時には複数の道徳的価値が対立する場面にも直面する。その際、生徒は、時と場合、場所などに応じて、複数の道徳的価値の中から、どの価値を優先するのかの判断を迫られることになる。その際の心の葛藤や揺れ、また選択した結果などから、道徳的諸価値への理解が始まることもある。このようなことを通して、道徳的諸価値が人間としてのよさを表すものであることに気付き、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念に根ざした自己理解や他者理解、人間理解、自然理解へとつながっていくようにすることが求められる。
(中略)
指導の際には、特定の道徳的価値を絶対的なものとして指導したり、本来実感を伴って理解すべき道徳的価値のよさや大切さを観念的に理解させたりする学習に終始することのないように配慮することが大切である。(『学習指導要領解説 特別の教科道徳編』14~15頁)

自己を見つめる

よりよく生きる上で大切なものは何か、自分はどのように生きるべきかなどについて、時には悩み、葛藤しつつ、生徒自身が、自己を見つめることによって、徐々に自ら人間としての生き方を育んでいくことが可能となる。したがって、様々な道徳的価値について、自分との関わりも含めて理解し、それに基づいて内省することが求められる。その際には、真摯に自己と向き合い、自分との関わりで改めて道徳的価値を捉え、一個のかけがえのない人格としてその在り方や生き方など自己理解を深めていく必要がある。(『学習指導要領解説 特別の教科道徳編』15~16頁)

物事を広い視野から多面的・多角的に考える

人としての生き方や社会の在り方について、多様な価値観の存在を前提にして、他者と対話し協働しながら、物事を広い視野から多面的・多角的に考察することが求められる。
(中略)
諸事象の背景にある道徳的諸価値の多面性に着目させ、それを手掛かりにして考察させて、様々な角度から総合的に考察することの大切さや、いかに生きるかについて主体的に考えることの大切さに気付かせることが肝要である。(『学習指導要領解説 特別の教科道徳編』16頁)

人間としての生き方についての考えを深める

人間にとって最大の関心は、人生の意味をどこに求め、いかによりよく生きるかということにあり、道徳はこのことに直接関わるものである。
そもそも人生は、誰かに任せることができるものではない。誰かの人生ではなく一人一人が自分自身の人生として引き受けなければならない。他者や社会、周囲の世界の中でその影響を受けつつ、自分を深く見つめ、在るべき自分の姿を描きながら生きていかなければならない。その意味で、人間は、自らの生きる意味や自己の存在価値に関わることについては、全人格をかけて取り組むのである。
また、人間としての生き方についての自覚は、人間とは何かということについての探求とともに深められるものである。生き方についての探求は、人間とは何かという問いから始まると言ってもよい。人間についての深い理解なしに、生き方についての深い自覚が生まれるはずはないのである。言い換えれば、人間についての深い理解と、これを鏡として行為の主体としての自己を深く見つめることとの接点に、生き方についての深い自覚が生まれていく。そのことが、主体的な判断に基づく適切な行為の選択や、よりよく生きていこうとする道徳的実践へつながっていくこととなる。(『学習指導要領解説 特別の教科道徳編』16~17頁)

道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる

道徳的判断力は、それぞれの場面において善悪を判断する能力である。(中略)
道徳的心情は、道徳的価値の大切さを感じ取り、善を行うことを喜び、悪を憎む感情のことである。(中略)
道徳的実践意欲と態度は、道徳的判断力や道徳的心情によって価値があるとされた行動をとろうとする傾向性を意味する。(『学習指導要領解説 特別の教科道徳編』17頁)

道徳科の指導の基本方針

(『学習指導要領解説 特別の教科道徳編』74~76頁)

道徳科の特質を理解する

道徳科は、生徒一人一人が、ねらいに含まれる道徳的価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を広い視野から多面的・多角的に考え、人間としての生き方についての考えを深める学習を通して、内面的資質としての道徳性を主体的に養っていく時間である。

信頼関係や温かい人間関係を基盤に置く

道徳科が学級経営と深く関わっていることを理解し、学級における信頼関係に基づく温かい人間関係を築き上げ、心の交流を深めることが大切である。

生徒の内面的な自覚を促す指導方法を工夫する

道徳科は、道徳的価値についての単なる知的理解に終始したり、行為の仕方そのものを指導したりする時間ではなく、ねらいとする道徳的価値について生徒自身がどのように捉え、どのような葛藤があるのか、また道徳的価値を実現することにどのような意味を見いだすことができるのかなど、道徳的価値を自己との関わりにおいて捉える時間である。

生徒の発達や個に応じた指導方法を工夫する

生徒一人一人が、道徳科の主題を自分の問題として受け止めることができるように指導を工夫し、興味や関心を高められるように配慮することが大切である。

問題解決的な学習,体験的な活動など多様な指導方法の工夫をする

実際の生活においては、複数の道徳的諸価値が対立し、葛藤が生じる場面が数多く存在する。その際、一つの答えのみが存在するのではなく、生徒は時と場合、場所などに応じて、複数の道徳的諸価値の中からどの価値を優先するかの判断を迫られることになる。こうした問題や課題について、多面的・多角的に考察し、主体的に判断し、よりよく生きていくための資質・能力を養うことが大切である。このためには、問題解決的な学習が重要である。

道徳教育推進教師を中心とした指導体制を充実する

校長の方針を明確にし、道徳教育推進教師を中心に指導体制の充実を図るとともに、道徳科の授業への校長や教頭などの参加、他の教師との協力的指導、保護者や地域の人々の参加や協力などが得られるように工夫する。

復習

・道徳の目的と、それに関連した指導のあり方について、総合的に理解を深めておこう。

予習

・『学習指導要領解説 特別の教科道徳編』76~83頁を読んで、「指導案」と「指導の工夫」について大雑把に把握しておこう。