【教育課程編成の基礎】スコープとシークエンスとは?

教育課程を編成する

 教育課程を編成を編成する上で重要な2つの観点が「スコープ」と「シークエンス」です。

スコープ

 「スコープ」とは、教育課程を編成するとき、どういった教育内容を選択するのかという、学習の範囲あるいは領域のことです。ゴルゴ13が狙撃する標的を狙うとき、何かを覗いていますね。デューク東郷が覗いているあのパーツも「スコープ」と呼ばれているわけですが、やはりそれも「範囲」と「領域」を絞ってターゲットに狙いを定める役割を果たしているものです。ああいうふうに、何かを狙って照準を絞っている「スコープ」をイメージすると、「領域」とか「範囲」というイメージをつかみやすいのではないかと思います。

 さて、教育内容を選ぶとき、行き当たりばったりで「あれもこれも教えよう」などと言っていたら上手くいくはずがありません。教育の目的や目標に即して、教育内容を取捨選択しましょう。
 教育の目的や目標は、生徒に身につけてほしい知識や能力が明確になっていれば、おのずと決まってきます。だからまずは、生徒にどのような知識や能力を身につけさせたいのかを明確にするところから考えることになります。

経験主義と系統主義

 そして「スコープ」をどう考えるかについては、様々な立場に分かれています。以下、主な立場を列挙してみます。

【生活中心主義】
 生活や人生の必要に即して学ぶべき領域を設定します。
 具体的には、「料理を作る/病気にならない/お金を稼ぐ/友達と仲良くする/親を大切にする/人の話を聞く/計算をする・・・」などなど。
 これらは確かに生活をする上では大切なことがらですが、こういうふうに必要なものを列挙していくだけでは、切りがありませんし、重複して無駄な部分もたくさん出てきそうです。そこで、もう少し学ぶべき「範囲」や「領域」をまとめて洗練させてみたくなります。

【経験主義】
 生活中心主義を洗練させます。生徒の興味関心を重視しながら領域をまとめて「教科」を設定します。
 具体的には、「健康/自然/お金/人間関係/言葉/数字・・・」などなど。
 こうやって雑多な生活内容をいくつかの「領域」にまとめて「範囲」を確定すると、無駄な部分もなくなり、教える方も学ぶ方も全体像が見えやすくなりそうです。ここで「スコープ」の観点が重要になってくるわけですね。

【学問中心主義】
 一方、生徒たちの生活をまったく無視して、既存の学問体系に即して学ぶべき領域を設定するような考え方もあります。
 具体的には、「医学/生物学/栄養学/物理学/化学/天文学/自然地理学/人文地理学/倫理学/経済学/政治学/社会学/言語学/幾何学/代数学・・・」などなど。
 こうすると研究の分野だけ「教科」ができることになります。が、これではやはり切りがありませんし、重複する部分が出て無駄もありそうですし、そもそもすべての子供が学ぶべきことがらかどうかも不安です。そこでもう少し学ぶべき「範囲」や「領域」をまとめて洗練させてみたくなります。

【系統主義】
 学問中心主義を洗練させます。学問の系統に従いつつ、「教科」を設定します。
 具体的には、「保健体育/家庭科/道徳/理科/社会科/国語/数学・・・」などなど。
 こうやって既存の学問体系をいくつかの「領域」にまとめて「範囲」を確定すると、無駄な部分もなくなり、教える方も学ぶ方も全体像が見えやすくなりそうです。ここで「スコープ」の観点が重要になってくるわけですね。

経験主義と系統主義の長所と短所

 というわけで、教育課程を編成するときに、基本的な考え方が大きく二つに分れています。「経験主義」と「系統主義」の2つです。どちらにも長所と短所がありますので、それを踏まえて考えていく必要があります。

主義長所短所
経験主義子供の興味関心や個性に即している。
学習の持つ意味が明確になりやすく、学習への意欲を持ちやすい。
知識の体系的な修得が困難。
一斉教授が困難など、授業の効率の問題。
受験に対する不安。
系統主義既存の科学体系を踏まえており、知識を体系的に修得する道筋が明確。
一斉授業が容易。
子供が学習に対する意義を見失いやすく、興味関心を持続できない。

 どちらかが完全に正解というわけではなく、両者の長所と短所を踏まえて教育課程を編成していく知恵が重要になります。両者のいいとこ取りをしようとする試みも、これまで数多くなされてきています。以下に代表的な例を見ておきましょう。

教科構成のバリエーション

類型構成方法具体例
相関カリキュラム関係の深い複数の教科間で内容の関連を図る。「地理」と「歴史」をひとつにまとめる。
融合カリキュラム複数の教科から共通の要素を抽出し、新しい教科に再編する。「理科」と「社会」を融合して「生活科」を作る。
広域カリキュラム複数の教科を大きな領域に編成する。「政治学」「経済学」「歴史学」「自然地理学」「人文地理学」「倫理学」「教育学」「社会学」「哲学」「心理学」をまとめて「社会科」にする。
クロス・カリキュラム。横断カリキュラム。複数の教科の教員が連携して、お互いにほかの教科の内容との関連を図る。「安全」という観点から、「家庭科」「理科」「社会科」などを横断して学習する。
コア・カリキュラム中心となる基本教科を決め、周辺にほかの教科を関連させて配列する。「社会科」を中心とし、そこで必要になる知識や技能を国語科や数学で身につける。

 最新の学習指導要領では「教科等横断の視点」を打ち出しており、上の表でいう「クロス・カリキュラム」の観点が強くなってきていると同時に、「総合的な学習の時間」を中心としたカリキュラム構成を打ち出すなど、上の表でいう「コア・カリキュラム」の観点も濃くなりつつあります。
 (ただし補足しておくと、「コンテンツ」による横断や統合ではなく、「コンピテンシー」による横断や統合を目指していることは、忘れてはならない重要な観点です。)

シークエンス

 「シークエンス」とは、教育課程編成をするとき、教育内容をどのような順番で配列するかという、順序のことです。
 (他に「シーケンス」と呼ぶことがありますが、英語のsequenceをカタカナで呼ぶときに発音が微妙にズレているだけで、中身は同じく「順序」を意味しています。)

 さて、ふつうにシークエンスを考えたら、生徒の発達段階に即して配列するのがいいような気がするわけです。

【段階型】=簡単なものから難しいものへ、単純なものから複雑なものへ、具体的なものから抽象的なものへ、というふうに、段階的に教える内容を発展させていくように授業の順序を決める。

 明治の開発主義の時代から、授業はこの段階型で並べるのが常識でした。ところが・・・

【現代型】=本質的なことは低年齢から教えられる。

 ブルーナーなど「教育の現代化」を唱える学者たちによって、1960年代から、教科の本質は低年齢からでも教えられるという主張が説得力を持つようになりました。ポイントは、様々な知識や技術を教えるのではなく、「教科の本質」を教えるというところにあります。
 確かに様々な知識や技術は、いきなり難しいことを教えることはできなさそうです。段階を踏んでいかなくてはならないでしょう。しかしどうも「教科の本質」はそうではないということのようです。普遍的な「教科の本質」は、発達段階に関わりなく、様々な知識や技術を通じながら教えることができるという立場です。

 最新の学習指導要領は、「現代型」の考え方に立っていると思われます。というのは、「コンテンツ・ベースからコンピテンシー・ベースへの転換」という基本思想を踏まえて総合的に考えると、それぞれの授業で雑多なコンテンツを身につけるのではなく、すべての授業を通じて普遍的なコンピテンシー(能力)を身につけることに重点を置いているからです。コンテンツを教えるのであれば「段階型」が良いに決まっているように思えますが、コンピテンシーを身につけさせたい場合には、「段階型」の発想では限界があるかもしれません。
 となると、教える方には、しっかりと「教科の本質」を理解しておく必要が生じてきます。どの発達段階の子供に対しても、様々な知識を通じながら、「教科の本質」を教える力が求められています。

単元

 順番に並べられた授業は、一回一回バラバラに行われるのではなく、いくつかをグループとしてまとめると、全体構成に統一感とメリハリが出て、一回一回の授業自体も理解しやすくなります。こうしてまとめた授業グループのことを「単元」と呼びます。

 では、一年間(あるいは一学期間)の授業の全体の流れを、どういった単元に区切るとよいでしょうか。重要なのは、子供たちが資質・能力を伸ばす上で分かりやすい単元に区切っていくことです。「単元のまとまり」とは、「身につけさせたい資質・能力のまとまり」でもあります。逆に言えば、「身につけさせたい資質・能力のまとまり」が見えていなければ、「単元のまとまり」も見えてきません。要するに、やはり「教科の本質」を踏まえて、単元を区切っていくことになるわけです。

まとめ

 「スコープ」の観点から見ても、「シークエンス」の観点から見ても、新しい学習指導要領はこれまでの考え方に対して大きく変更を迫るものです。学習指導要領の中身を理解する上でも、カリキュラム・マネジメント実践のためにも、教育課程編成の基本用語である「スコープ」および「シークエンス」の意味はしっかりと理解しておきたいものです。