【要約と感想】村井実『新・教育学の展望』

【要約】教育学は自律した学問として成立していません。それは教育の本質を学問の土台に据えてこなかったからです。教育の本質とは「よく生きよう」とする人間の姿勢にあります。しかし残念ながらこれを誤解してしまう傾向が人間にはあり、まずその克服をしなければなりません。「よさ」が外部に存在していると思い込む実在的偏向、「よさ」が倫理的なものに限られると思い込む倫理的偏向、「よさ」を快楽と同一視する快楽的偏向です。

【感想】教育学が自律した学問として成立しておらず、隣接諸科学からもさほど敬意を払われていないことは、まあ、肩身の狭い経験をした人なら実感するところではある。それを乗り越えるために、教育学の目的と対象を明確にしようとしたりとか、様々な取り組みはしてきたわけだけど、まあ、そうこうしているうちに人文諸科学全体が同じような肩身の狭い思いをするようになってきている気もする。

そんな中、村井実の我が道を行く独自の教育学体系が存在しているという事実自体に、心強いものを感じる。教育学の自律をこれほど強く求めている人は、国内外含めてなかなかいない気がする。プラトン思想を偏向していると一刀両断できる力強さは、他の人の言葉には求め得ないんじゃないかな。教育学は「雑学」であると居直るのもアリだとは思うけど、愚直に学問としての自律を追究し続ける著者の姿勢には、素直に敬意を感じざるをえない。

村井実『新・教育学の展望』東洋館出版社、2010年