【要約と感想】納富信留『プラトンとの哲学 対話篇をよむ』

【要約】プラトンの本から有益な何かを一方的に教えてもらおうとしても、得るものはありません。プラトンとの対話の渦に巻きこまれることで、問いの本当の意味が初めて見えてきます。ということで、実際にプラトンと対話してみました。

【感想】「入門書」と銘打ちながら入門書らしからぬ著作が散見される中、本書はしっかりプラトンの著書の概要を伝えていて、なかなか入門書らしい体裁を取っているように思った。しかし一方で、入門書だからこそできる(つまり学術的な手続きに即した論証なしの)意見も前面に出てきている。著者のスタイルは、対話篇が対話篇である本質的な意義を土台に据えているところにある。たとえばその意識は言語論に対する丁寧な扱いに垣間見える。「イデア論」を絶対的な真実と単純に決めつけるのではなく、どうして「イデア論」が必要となるかを、奥歯に物が挟まったような回りくどい言い方を積み重ねて説明していく。

イデア論には明らかな論理的欠陥があって、プラトン自身もそれを認めている。しかし一方で、プラトンにつきあっていると、それでもやっぱりイデア論は必要だと思ってしまう。その行き詰まりと粘り強くつきあうこと自体が重要な哲学的営為なのであって、たとえばイデア論をズバっと単純明快に説明することにはおそらくあまり意味はない。そういう意味では本書は通常の入門書とは言えない書き方になっているが、そもそもプラトンに通常の入門書を求めること自体が原理的に不可能だとも言える。そういう逆説に果敢に挑んだ入門書だと思うのがよいかなあと。

納富信留『プラトンとの哲学―対話篇をよむ』岩波新書、2015年