【要約と感想】仲正昌樹『今こそルソーを読み直す』

【要約】ルソーの政治社会思想に焦点を当て、現代政治哲学の成果も交えながら、特に「一般意志」について詳しく解説してくれる教養本。自然的自由を市民的自由へと変換してしまう道筋が、社会契約論の醍醐味。しかしルソーの思想は多義的で矛盾を含むものであって、一貫的な体系性はもともと期待してはいけない。「人間」と「市民」という先鋭化した両極でブレまくる姿こそ、我々がルソーに求めているものかもしれない。

【感想】個人的には、「一般意志」を、あらゆる具体的な属性を剥ぎ取られた理念人の持つ意志というふうに考えるのが、一番落ち着く。男でもなく女でもなく、金持ちでも貧乏でもなく、年寄りでも若者でもなく、手があるのでもないのでもなく、健康でも病気でもなく、日本人でもインド人でもない、そんなふうに具体的な属性を全て喪失した、理念的な「点」としての人間。そういう理念人が持つであろう意志を「一般意志」とすると、誰にでも普遍的に当てはまるような抽象的な共通点が見つかる。その普遍的で抽象的な共通点を憲法として構成した上で、あとは属性を元に戻してやって、多数決で具体的な法律を決めていくという感じ。まあ、ロールズの手続きとほぼ同じだけど。

具体的な人々の個人差を放置したままで集合的人格を構成するには、アクロバティックな飛躍が必要になる。ルソーの言う一般意志は、そのあたりの手続きがかなり杜撰な気はする。いったん個人差を解除するような手続きが挟まれば、多少はハードルが下がりそう。

とはいえ、「自然的自由」を「市民的自由」へ転換するという論理が、強烈な発明なのは間違いない。わがままで自分勝手だからこそ、進んで協力する。日本や中国やインドからはこんな発想は出てこない。近代ヨーロッパの面目躍如だ。

仲正昌樹『今こそルソーを読み直す』NHK出版 生活人新書、2010年