【要約と感想】岡田温司『グランドツアー』

【要約】18世紀ヨーロッパでは、教育の総仕上げとしてイタリア旅行に出かけることがブームになっていました。イタリアでは文化人たちのサロンが形成され、新しい文化的な心性が育まれ、西ヨーロッパへと環流していきました。

■図らずも新たに知った事実=18世紀イタリアでは、女性の文化人が、美術や医学や哲学など幅広い分野で活躍していた。ひょっとしたらモンテッソーリなんかもその伝統的地盤から生まれてきたりするか、どうか。

また、18世紀イタリアでは、19世紀の印象派を100年先取りするような風景へのまなざしが生まれていた。17世紀に衰退したかに見えたヴェネツィアの文化も、18世紀にはむしろ生産性を高めていた。ひょっとしたら、ルネサンスにおけるイスラームやビザンティンの忘却と並べて、18世紀イタリアに対しても意図的な忘却が施されている可能性を視野に入れておく必要があるかもしれない。英独仏を中心とするヨーロッパ起源の捏造という点でシチリアが面白い位置にいるのは分かっていたつもりだけど、イタリア問題も相当に根が深そうだ。

【感想】西ヨーロッパにとってのイタリアは、日本にとっては中国にあたるような感じ。古代への憧れと現在への反発が同居するという意味で。ほか、異教的要素とキリスト教的要素、または歴史的景観と自然的風景、あるいは素朴で質実剛健な単純性と猥雑な多様性という相反する嗜好の同居など、イタリアに対する人々の感情と評価の振れ幅が大きいのは印象的だった。

岡田温司『グランドツアー―18世紀イタリアへの旅』岩波新書、2010年